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【深める】為替相場と関連してやや難し目の指標4つ ④「実質実効為替レート」

これまでの記事

ビックマック指数とか、内外価格差といった指標に触れたが、もう一つ新たな指標を追加として取り上げておきたい。

fukuchanstudy.hatenablog.com

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実質実効為替レート

「実質実効為替レート」というのがそれである。

「数値が高いほど対外的な購買力があり、海外製品を割安に購入できることを示す指標」

だが、結論から先に言っておくと、そのレートが50年ぶりの円安水準になったとのこと。

言い換えれば、円の購買力が弱くなったということなのだ。

実質実効為替レートの推移

日本銀行主要時系列統計データ表を元に作成

国際決済銀行(BIS)の発表によると、

2022年1月の実質実効為替レートが67.37で、

1972年以来の低水準となったそうだ。

 

さらに、2022年7月には58.7と51年ぶりの低水準で、

統計が残る1971年8月過去最低の57.1に迫った。

なお、最高は1995年4月の150.84である。

www.nhk.or.jp

1972年の前後について確認

1972年の前後について確認しておく。

①1970年代

1971年に「ニクソン・ショック」が生じた。

1973年から主要国が「変動為替相場制」に移行した、転換期の頃のことだ。

 

強いドルに守られて高度経済成長してきた日本に対して、「そろそろ一人前になってくれ」と、日本社会が荒海のなかで独り立ちに向けて漕ぎ始めたばかりの頃のこと。

②1980年代

その後、オイルショックなどの波も乗り越え、1985年にはプラザ合意によって、円高ドル安の介入が図られ、実力以上の円高となった。

その後、円高不況を回避するために金融引締をするとバブル景気が生じた。

③1990年代

1991年にバブルは崩壊したが、1995年には実質実効為替レートは150を超え、円の購買力はピークを迎えた。

④現在

しかし、その後、バブル崩壊後の景気低迷とデフレによって、それが現在は半減したということだ。

ただし、プラザ合意に象徴されるように、円が過去高すぎる評価を受けてきたので、その修正を経て50年ぶりに「元の水準に戻っただけ」という見方をする論者もいるが、「独り立ちに向けて漕ぎ始めたばかりの頃」に戻ったということは、かなり危機感をもつべきではないか、と個人的には思う。

「実質実効為替レート」という指標

では、そもそも「実質実効為替レート」とはどのような指標なのか?

ということだが・・・その計算式はかなり複雑なので割愛することとして、

二カ国間の為替レートではなく、様々な通貨との交換比率や、さらに貿易や「物価変動」も加味して調整した通貨の実力を測る総合的な指標・・・

といったところでとどめさせてもらう。

 

大事なのは「実質」の場合は「物価」を考慮した点。

 

物価を考慮するとどうなるか、簡単な事例で確認しよう。

(1)円高と円安

アメリカへ旅行中、現地で1本1ドルのジュースを購入する場合

 

 ①為替レートが1ドル100円の時期に購入する場合

  →100円で購入することになる。

 ②為替レートが1ドル80円の時期に購入する場合

  →同じ1ドルのジュースでも、円換算値段は80円。

 

したがって、日本からアメリカに海外旅行に行き買い物をするとき、為替レートは「円高」の方が有利。

 

(2)物価変動が生じた場合

ところが、為替レートの1ドル80円のときに、アメリカ国内でインフレが発生し、1ドルだったジュースが2ドルになったとしよう。

 

この場合、1ドル80円なので、ジュースを購入するのに実質160円を払うことになる。

この場合、円の購買力は「低下」していることになる。

 

極めて大雑把であるが、また、これは2か国間のものでしかないが、こうした購買力の変化をまとめあげたのが「実質実効為替レート」みなしてよい。


そして、もし1ドル80円が1ドル100円に円安に振れると、ジュースを購入するのに実質200円を払うことになる。こうして円安がさらに円の購買力を「低下」させることになる。

注意点①「実質実効為替レート」の数字の意味

※ただ注意しなければならないことがある。

「実質実効為替レート」は価格が、80円→160円→200円と価格の上昇を示すものではなく、

数値が高いほど対外的な購買力があり、海外製品を割安に購入できることを示す指標」であるということ。

なので、むしろ逆に円の購買力が低下すると、数値自体は小さくなるという点。

注意点② グラフの読解

グラフは、2010年を100とするものが多い。

そうすると為替レートと反比例したような軌跡となる。

公的な組織のもののグラフが見当たらなかったので、以下のサイトのグラフを参照のこと。

weekly-economist.mainichi.jp

青い軌跡が2010年を100とした「実質実効為替レート」の軌跡である。

 

ただし、右軸と左軸で数値の上下を逆にして表示する場合もある。

その場合は、同じような軌跡となる。

www.nikkei.com

グラフの表示の仕方によって異なるので、これまた注意が必要。

 

【復習】円の購買力の低下理由

では、なぜ、円の購買力が弱くなったのか、再度確認しておこう。

変動の背景の一つには、景気の低迷がある。

まずは、1990年代後半から物価が下がり、2000年代に入ってもデフレが継続、「デフレ・スパイラル」という現象も生じた。

その際、「物価と為替レートは反比例」するので、これだと「円高」に振れる。しかし、アベノミクスによって、ある意味強引に「円安」に持っていった。

一方で日本以外の多くの国がかなりの物価上昇。

そうなると、「物価と為替レートは反比例」するので、ドル安、ユーロ安などが進む。

 

言い換えれば、その分「円高」に振れる。ところが・・・

それをよしとしない政府日銀はいよいよアベノミクスを強化、円高を回避するための政策をより一層推進し、実質的な「円安」水準だけは維持、この結果、円の購買力はじわじわと低下してきた・・・

と考えてやることができる。

そして今、アメリカが歴史的なインフレとなり、アベノミクスとは違うところから円安が加速化、この新たな円安が、これまでの実質的な円安の上に乗って、円の購買力をより一層低下させつつある・・・というところか。

 

なお、現在の新たな円安は、アメリカがインフレを抑えるために金利をあげ、そのため円売りドル買いが進んだため・・・この点は承知のことかと思うが、なぜ、アメリカがインフレになっているかというと・・・

ウクライナ戦争によるエネルギー、食糧の高騰も一因だが、共和党は、バイデン政権による、国民への給付金などコロナ禍対策としての一連の経済政策が要因だということで、失政との批判を強めている。3回にわたる一人当たり総額30万円を超える直接給付が原因だとすればバイデン政権にとっては何とも皮肉なことであろう。

 

日本の物価が上昇しない理由

最後に、何故多くの国が物価が上がってきた中で、日本は長い間物価があまり上がらなかったのか?

それには様々な要因があろう。

 

ここ10年は、強引な「円安」政策で抑制はされているものの、基本的には「円高・デ

フレ」という相互作用もその一因と考えられる。

理論上「物価と為替レートは反比例」するので、円高は物価下落の要因となる。

 ※円高がデフレと親近性があることは頭に入れておこう

ただし、強引な「円安」政策をとってきたものだから、日本の相対的な物価下落に似合

うほどの円高に振れていないため、円の購買力としてはマイナスになっている。

円の購買力が低下したということは、物価上昇を抑制することにもなる。

 ※円の購買力の低下は海外のものをたくさん買えないということ。そうすると経済活

 動は減速する。景気が低迷し、物価は上昇しにくい。むろんコロナ禍による経済活動

 の低下もこれに拍車をかけてはいるが・・・

こういう二重の要素で、日本の物価は上昇しにくくなっている。

 

 ただし、現在の円安は、エネルギー、食糧の輸入品については物価上昇となり、企業

や家計を直撃している・・・コスト・プッシュ・インフレの悪いインフレだ

 


が、ここで注目しておきたいのが、「賃金」もほとんど上昇していないという実態があること。

つまり、「物価と賃金」がセットで低空飛行をしてきたということだ。

1990年代半ばまで、日本の賃金は世界トップクラスだったが、その後今日に至るまで名

目賃金はほとんど上昇せず。

OECDの調査によると、物価上昇分を差し引いた実質賃金も1990年代後半を100とすると、90を切っているとのこと。


賃金が上がらなかったら消費意欲も高くならない。そうなると製品の価格もあげられない。物価は上がらない。景気は低迷したままだ。

 

では何故「賃金」が上がらなかったのか?
ということで疑問は尽きないが・・・これについては4月10日付けのコラム「物価と賃金はなぜ上がらなかったのか?」を参照願うとして

 

とりあえず今回は、それが一転、「物価が上昇しつつある」・・・ということになる

と、賃金もまた上がってくれるのだろうか?

当然、賃金が上がってほしいが、そう簡単に行くのだろうか? 

 


経済は、いろいろな要素が絡み合っていて、一気に全体像を掴み取るのは難しい。

一つ一つ理解し、積み重ねていこう。