【深める】基本的人権 ~大学基礎レヴェルの内容を視野に入れて~ ①憲法の人権規定は私人間にも適用されるか?
基本的人権は、超頻出分野。
基本的なことは、「三つで括って覚える」でぜひチェックを。
で、やや読解力・判断力・思考力が求められることについて、解説や問題を創作してみた。
主に裁判に関連したもので、解説はいささか込み入っているが、読解力を高めるものとして読み込んでほしい。
憲法と法律の違い
憲法と法律はどう違うのかと問われたらどう答えるであろうか?
憲法が「最高法規」程度しか思いつかないかも知れないが、ザックリ言うと
・「法律」は権力者が国民を縛っているのに対して、
・「憲法」は国民が権力者を縛っているものと理解しておくとよい。
つまり、制約、制限の対象が憲法と法律では違うということ、
憲法はもっぱら統治者の暴走を制限したものであるということだ。
憲法の私人間効力
私的自治の原則
と言うことは、憲法で規定されている精神の自由とか、平等権などは、あくまで「国民が国に保障させている権利」であって、「私人」間でも即、保障されるという訳ではない・・・ということになるのか?
・・・基本、その通りである。「私人」間の権利義務関係は、国家がこれに干渉してはならないという「私的自治の原則」という大原則があり、それとの兼ね合いがあるからである。
間接適用説
では、憲法の人権規定は全く「私人」間には適用されないのかと言うと、これがまたそうではない。
私法の一般条項の解釈に「憲法の人権保障の趣旨を導入」して、間接的に憲法の効力を「私人」間に及ぼして適用すべきと考える「間接適用説」という考え方があり、これが通説となっていると考えてよい。
【判例】三菱樹脂事件
この間接適用説の立場に立った判決の一つが「三菱樹脂事件」である。
「特定の思想、信条を有することを理由とする雇入れの拒否は許されるか」が争われた事件であった。
裁判所は、思想・良心の自由は、私人間には「間接的に適用されるに過ぎず」、雇用の自由を否定する理由はないと、原告が敗訴し、会社側が勝訴したことは知っているはず。
ここで注意したいのが、この訴訟の場合、「間接的にでも適用されるので、思想・良心の自由は保障されるべき」という論理で原告の主張が認められた訳ではなかったということ。
従って、この判決に関しては結構批判があるという点である。
思想・良心の自由は「内心の自由」で、国家による制約はいっさい認められていないものであることや、消極的な適用説だと、国家に匹敵する社会的に巨大な力を持った会社に一般個人が人権侵害を受けた時に、これを保護することができないのではないかといった観点から、疑問も出された。
【判例】日産自動車定年差別事件
一方、原告側が勝訴した事例が、「日産自動車定年差別事件」である。
「憲法第14条の趣旨に鑑み」、「民法第90条の規定により」定年に差を設けるのは無効であるとされた。
こうした「公序良俗」や「不法行為」(他人に損害を加える行為)といった民法の条項によって、人権を保護しようとするケースもある。
憲法第14条1項
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
民法第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
直接適用
ところが、いささか厄介だが、憲法が「私人」対「私人」を想定していると考えられる以下の事項については、「直接適用」されると考えられている。
秘密選挙や奴隷的拘束の禁止、児童酷使の禁止、労働基本権などがそれに該当する。
「家庭生活における個人の尊厳と両性の平等」もこれに加わるとのこと。
となると、婚姻は両性の合意のみに基づいて成立・・・それを認めない場合は憲法違反になるということになる。
資料集などには、「アイドルの恋愛禁止は違憲か?」という問いがあり、これは違憲ではないという記事が掲載されているが、こと、結婚となると、周囲の反対で強制的に結婚を認めないというのは、違憲行為にあたることになる。
なお、「奴隷的拘束の禁止」については、国家権力による行為だけでなく、「私人による人身売買や強制労働も含まれる」といった文章(○)がセンター試験でも出題されている。
従って、こうしたところまで知識が求められていると考えてよい。
以上、上記のような過去問もあるが、まずは以下の文章の正誤が判断できればOK・・・かな。
・憲法の人権に関する規定は、私企業による人権侵害にはまったく適用されない。
・憲法の人権に関する規定は全て、私人間の権利義務関係にも直接適用される。
→無論両方とも✕①憲法の人権規定は私人間にも適用されるか?
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