【共通テスト対策】フクフクちゃんの現代社会・倫理・政治・経済

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【深める】格差に関する指標について③相対的貧困率(2)

前回、相対的貧困率について触れてみた。

fukuchanstudy.hatenablog.com

 

日本の所得分布図

言葉の説明だけではピンとこなかったかも知れない。そこで見える化を図ってみよう。
まず、そもそも日本の場合、所得の分布図はどのような形だと思うか?下の分布曲線から選んでみよう。

 

 

おおかたの先進国はCの形をとるようで、低~中所得層が多く、富裕層は少ない。
ただし、富裕層の中にはとんでもない富豪もいる。
そのため、Aの正規分布図の場合、平均値、中央値、最頻値はほぼ同じような値となるが、
Cの場合は、富裕層のうち最上層は相当な所得があり「平均値」は跳ね上がるため、最頻値<中央値<平均値という順になる。

 

所得分布に関する実際のグラフ・ヒストグラム

で、所得分布に関する実際のグラフ・ヒストグラム(2018年)は以下の通りである。

出典:2019年 国民生活基礎調査II 各種世帯の所得等の状況 2 所得の分布状況


「200~300万円未満」が 最頻値で、中央値が437万、平均値が552万。
ただし、これは所得のヒストグラムであり、相対的貧困率は、所得から所得税、住民税、社会保険料、固定資産税・都市計画税及び自動車税等を差し引いた「可処分所得」を母体に、さらに世帯人員の平方根で割って調整した所得。

従って、単純に437÷2ではなく、計算の結果、2018年の貧困線は127万、相対的貧困率は15.4%とのこと。

 

等価可処分所得金額階級別世帯員数の相対度数分布

そうした数値を追っていたら、2015年と比較した「等価可処分所得金額階級別世帯員数の相対度数分布」のグラフを見つけた。

これは参考になる。
それを掲載する前に2015年と2018年の数値を確認しておくと

中央値の数値が上がるとともに、貧困線も上がっている。

そうなると、グラフ上では貧困線が右に移動するため、一見、貧困層の裾野が広がり、相対的貧困率は上がったかのように思えるが、事情は逆で、数値を見ると、全世帯だけでなく子どもなどもいずれも相対的な貧困率は低下し、「改善」されている。
これをグラフで見てみよう。

 

出典:2019年 国民生活基礎調査II 各種世帯の所得等の状況 5 貯蓄、借入金の状況

 

貧困線以下に注目

●まず注目したいのが、全世帯の貧困線以下のところ。2015年に比べて40万未満を除いて少しずつではあるが減っている。

先に、「貧困線を下回る人の所得が増え、人数が少なくなるほど「貧困率」は低くなっていく」という文章の正誤判断にやや悩んだかと思うが、このグラフをみると○と納得できるのではないか。

40万未満が増えたのは気になるが、80万~100万などでは、一部の人々は所得が増えステップアップしたのか、総体として貧困層自体の総数は低下している・・・

また、より分かりやすいのが右の「子どもがいる世帯で大人が一人」いわゆる一人親家庭の貧困線部分。120~140が大きく増えているのが分かる。それまで貧困線以下であったと想定される世帯が所得を増やし、当初の貧困線を超えたのではないか・・・と推測できる。貧困線自体は上昇するものの、その新たな貧困線を超える層が増えた場合は、相対的な貧困率は低下する。結果、「子どもがいる世帯で大人が一人」の相対的貧困率は50.8%から48.1%に改善されている。
なお、上記グラフでは、中央値より高い所得のところで上昇も見られるが、この上昇自体は中央値・貧困線の上昇には影響を与えない。影響を与えるのは、貧困線前後の層の変動である。

 

格差の拡大

このグラフは、2015年と2018年の比較で、改善傾向にあることを示したものであるが、もっと長いスパンで見ると、やはり、現在の日本社会は格差が相当拡大している。

現在、円安が進み、金融破綻が相次いだ1997年以来の水準だと言われているが、その1997年の貧困線は149万。2018年現在の貧困線は127万なので、日本の「半数の」所得水準はかなりの水準で下がっているのだ。

確かに、相対的貧困率自体は短期的には若干の改善傾向にあるものの、中央値でみると、25年前に比べて、月平均5万も少なくなっているという計算になる。これでは、多くの人が閉塞感をもつはずである。

 

相対的貧困率を低下させるには

ではどのような政策があれば、相対的貧困率は低下することができるだろうか?

このあたりも問題として成立する。たとえば、貧困線以下の層の所得をあげるため、まずは「ワーキングプア」解消をめざし、同一労働同一賃金最低賃金の値上げ等の推進をするのが一例。「ひとり親世帯」の貧困率が高いことから、子ども食堂、フードドライブ、無料塾等の試みも後押しとなろう。

しかし他方で、「ひとり暮らしの高齢者」については、年金額が少ない場合貧困線を脱することは厳しい。退職年齢の引き上げや高齢者の再雇用等の政策推進もあろうが、全員が全員元気で働ける訳ではない。逆進性の強い消費税を廃止すれば高齢者の負担感も減るであろうが、消費税の廃止など夢のまた夢。そもそも、「相対的貧困率」がゼロになることはあり得ない・・・でも、その貧困層が人間として尊厳ある暮らしを営むことができれば良いのだが・・・「生活保護」というセーフティネットはあるにせよ、現実は厳しい。

 

ベーシックインカムという政策

しかし、他方では、やはり一人親家庭の状況は厳しいと言わざるをえない。様々な方策で支えていく必要を痛感する。また、最底辺の40万未満のところが増えているのはやはり気がかりだ。どのような政策が有効なのか、単なるばら撒きではなく、息の長い支援政策、セーフティネットの再構築が急務だ。
そうした中、教科書には触れられていないのに、センター試験で何度も出題されてきたある政策がある。


ベーシックインカム」である。この言葉、知っていたであろうか?
国民の生存権を公平に支援するため、国民一人一人に無条件かつ定額で現金を給付するという政策構想である。

ワーキングプア」解消や少子化対策にも有効とされ、「貧困対策のための福祉制度」である生活保護とは違って、「個人の購買力を補強する広義の経済政策」あるいは「社会全体の公正さを実現する社会的正義のための政策」とも言われる。

ただし、膨大な予算がいること、また労働意欲の減退が懸念されるなど、実現のためには超えなくてはならないハードルも多い。

新自由主義的なベーシックインカム論のなかには、現金福祉給付や年金などをすべてベーシックインカムに統合して、むしろ予算増にならず、「小さな政府」を目指すような立場もある。こいつは弱者切り捨てになりかねず、危険かな。
コロナ禍で一律10万円の給付がなされたが、臨時のバラ撒きではなく、恒常的に給付する制度・・・
海外では導入実験をした国や、限定的なベーシックインカムを導入する国も現れた。
今後、君たちの世代では、選択肢の一つとして制度構築を真剣に検討すべきかと思うが、その前提としての財政再建がそもそも到底おぼつかないところが悩み。

 

今後共通テストでも出題の可能性は強い。友人と導入の是非を話し合ってみるとよい。
なお、この議論の参考になるのが、NHKの「大学生とつくる就活応援ゼミ」。

リンクを貼っておくので興味のある高校生ものぞいてみるとよい。

www3.nhk.or.jp