【深める】格差に関する指標について③相対的貧困率(3)
相対的貧困率については、以下のことも留意したい。
相対的貧困率を理解する上での注意点
これまでみてきたOECDが採用している「相対的貧困率」は、あくまでその国の世帯所得の相対的な「格差」を示しているだけであって、その国の貧しさ、豊かさを示したものではない・・・ということ。
たとえば、
平均的所得が大きく、一方でバラツキも多い国Aがあるとしよう。
平均的所得は低いけど、ある程度狭い範囲内で固まっているB国があるとしよう。
下にその略図を示す。
どちらが貧しい国か、と問われると・・・B国であろう。
B国の所得の「平均値」はA国と比較してかなり低い。また、「中央値」「貧困線」も同様だ。
しかし、このケースの場合、相対的貧困率を計算すると、実は、A国の方が高いのだ。A国はバラツキが大きいもんね。ということは格差が大きいということ。
一般に、中間層が厚い国は相対的貧困率が高く出るとのこと。
また、大金持ち以外はほとんど貧困層である国は意外に相対的貧困率自体は低いものとなるとのこと。後者は相対的にみんな貧しいので、中央値・貧困線自体が極めて低いものとなるからだ。
所得の分布図は様々なケースがあり得るが、いずれにせよ、国の経済水準と相対的貧困率それ自体については相関関係はないのだ。
従って、繰り返すが、相対的貧困率は、豊かさ・貧しさそのものではない・・・という点は留意しておきたい。
ただし、こうしたことから、「相対的貧困率」は指標として意味がないといったことを主張する論者もいる。が、決してそうではない。格差の一側面を浮き彫りにする指標の一つとして、あくまで意味をもつものであり、「相対的貧困率が高いからと言って問題ない。日本自体は経済力が高いのだから、心配ご無用」といった言説には同意できない。
【練習問題】
で、とどめにもう一問。以下のうち、我が国の相対的貧困率について述べた文のうち正しいものを一つ。
①OECDが示す相対的貧困率は、等価可処分所得の平均値の50%未満の所得層が全人口に占める比率を指し、日本はG7の中では高い比率である。
②高齢者層は相対的貧困率が高く、高齢化が進行すると、特別の政策がない限りは、全体としての相対的貧困率も拡大することになる。
③「令和3年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、「子どもがいる現役世帯」のうち、「大人が一人」の世帯員の相対的貧困率は、全世帯平均の相対的貧困率より低い。
④「令和3年国民生活基礎調査」(厚生労働省)によると、1997年(平成9年)以降、相対的貧困線の実質値は一貫して上昇している。
判断できたであろうか?迷ったかな?
まずは知識で①を消去したい。「平均値」ではなく「中央値」。
③は「一人親家庭」を意味するので、さすがに✕。一人親家庭の貧困率は極めて高い。
残るは②か④か。④は「一貫して」が怪しい。
②は年金だけだと確かに高齢者は厳しいけど・・・金をもっているような気もするし・・・で悩むかも。しかしやはり②は正しい。
政府が特別の政策を打ち出したら別なので、念のため「政府の特別な政策がない限りは」という一文を付け足したが、日本の「相対的貧困率」の高さは「高齢化率」と相関関係があるであろうと判断し、④の「一貫」の方は消したい。実際、高齢化は日本がG7のうち相対的貧困率が高くなっている主要因と言っても間違いではなかろう。
【練習問題】「公共」サンプル問題
で、最後に、とっておきの課題を。先般発表された、新科目「公共」のサンプル問題の中に、実は、相対的貧困率を含んだ「指標」の解釈にかかわる問題があるのだ。第3問 問1 がそれである。
リンクを貼っておくのでぜひ目を通してほしい。
指標の意味合いに関する読解力が要求されており、グラフから「言えること」「言えないこと」等を判断するものもあり、なかなか手強いぞ。正解は③。
「数学」や「情報」もしっかりと勉強しておきなさい・・・といったメッセージが込められているような気もする。
「公共」の試験はまだ先だが、示唆に富む。