【深める】格差に関する指標について③相対的貧困率(1)
「相対的貧困」と「絶対的貧困」
・「絶対的貧困」は、人間として最低限の生存を維持することが困難な状態を指す。
飢餓に苦しんでいたり、医療を受けることがままならなかったりする人がこの状態に当たる。
・一方で、「相対的貧困」とは、その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態を指す。
具体的には、世帯の所得が、その国の等価可処分所得の「中央値」の「半分」に満たない状態のこと。
OECDが指標にしているもので、等価可処分所得の「中央値」の「半分」を「貧困線」とし、貧困線以下の所得で生活を余儀なくされている世帯の%で表現する。
日本は2000年代中頃より(←小泉内閣)数値が上昇、16%前後で推移、OECDの平均値を上回っている。
貧困線の計算式、平均値と中央値
貧困線の計算式は、
等価可処分所得※の「中央値」の半分の額
※等価可処分所得とは、世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を、世帯人員の平方根で割って調整した所得のこと。
なぜ世帯人員で割るのではなく、「世帯人員の平方根」で割るのかあたりは意味が分からないと思うが、ここは深入りせず、そういう計算式が実態に即するものらしい・・・程度で、括弧にくくって不問に付すとして、繰り返すが、注意したいのは「平均値」ではなく「中央値」であること。
・平均とは変量の総和を個数で割ったもの。
→データの合計をデータの個数で割って得られる値
→平均値は、極端な値の影響を強く受けるという欠点がある。
・中央値(メディアン)は、母集団の分布の中央にくる値のこと。
→データを大きさの順に並べ替えたとき、順番が真ん中になる値
→中央値は、「バラツキがあり」「格差が大きい」ケースに適したものであるとされる。バラツキや異常値があっても、常に「中心」の位置を示す値なので、所得の傾向を比較するには適した基準とされる。
総務省統計局にわかりやすい解説があったので添えておく。
一方で、「相対的貧困率」は、「資産」などは考慮されていない。
従って、あくまで「所得」のみに着目した格差の一面でしかないことも留意したい。
【予想問題①】相対的貧困率の推移グラフの読み取り
で、この「相対的貧困率」については、試験にどのように問われる可能性があるか?
と言えば、ひとつには推移グラフを活用した読み取り問題かな・・・と思われる。
■相対的貧困率の推移のグラフ
出典:厚生労働省 図表2-1-18 世帯構造別 相対的貧困率の推移
■相対的貧困率の「国際比較」のグラフも出題可能性があるが、ネット上に公的組織が出した新しいグラフがないので、資料集を紐解いてほしい。
「再配分後」の相対的貧困率については、G7のうちアメリカに次いでワースト2であることは知識として持っておいたほうが良い。
【予想問題②】正誤問題
もうひとつは、「相対的貧困率」が改善されるにはどうしたらよいか?
という問いだてのもと、以下のような正誤問題も考えられる。誤ったものはどれか。
創作問題だが、かなり迷うはず・・・
① 等価可処分所得がみな同じように増えても「相対的貧困率」はほとんど変わらない。
② 平均所得以下の世帯が半数を超えている場合、中央値より所得が高い人のみ所得が増えると、所得格差は拡大するが、「相対的貧困率」自体は変わらない。
③ 貧困線を下回る人の所得が増え、人数が少なくなるほど「貧困率」は低くなっていく。
④ 「貧困率」が低くなると、生活保護世帯も減少していく。
数学的なセンスが必要な問題で、政治経済の問題とは言い難いかもしれないが・・・
①は○。
「貧困率」は相対的なものなので、所得が同じように増えたとしても、相対的な貧困層は貧困層のままである。
ただし、以前より生活水準自体は向上する。なお、逆に社会全体の所得水準が低下しても「貧困率」は変化しない。
しかし、貧困線よりやや上の層は、所得が減少している訳だから、生活を切り詰める必要があり、「中流意識」をもつことはできなくなる。
賃金がおよそ20年間も変わっていない日本は、まさにこの状況に近いと言っても間違いでないかも知れない。
②も○。
所得格差が拡大するので「貧困率」も上昇するように思えるが、貧困線前後の所得が増えない限りは、「貧困率」の変動はない。
このあたりなかなか理解しがたいと思うが、平均所得以下の世帯が半数を超えている場合、平均値はあがっても、全てのデータを小さい順に並べる貧困線自体に変動はないからである。
③も○。
「貧困率を下回る人数が少なくなる」訳だから、当然貧困率は下がる。これは何のことない、論理的に混乱しつつも、間違ったことは言っていない文章である。
センター試験、共通テストでは、こうした混乱させるような文章を敢えて注入してくることがある。
ただ、ここで分かりにくいのが、二点。
ひとつは「貧困線を下回る人の所得が増え」たら「貧困率を下回る人数が少なくなる」という関係性。
もう一つは、貧困線が上昇してしまい、所得が上がっても新たな貧困線ラインを超えられないのではないか・・・といった深読み。
で、この点は後に「視覚的」に再確認することとして、とりあえずは、単純に、貧困線を下回る人数が少なくなるほど「貧困率」は低くなる・・・これは否定できないことなので○と判断し、四択であれば、他のものと斟酌し、場合によっては再検討ということにしておく程度にとどめる。
④仮に、相対的貧困層のうち一部の人たちが所得を増加させ、貧困率が下がったとしても、生活保護世帯が同様に所得を増加させると言えるかどうか・・・生活保護世帯は絶対的貧困ではないものの、所得拡大が厳しい状況であるから、そうは言い切れないのではないか。となると、両者に正の相関性があるとは言えず、✕と判断せざるを得ない。実際も、相対的貧困率はここのところ10年間で大きな変化はないが、他方で、生活保護世帯はかなり増加しているという状況にある。
なお、生活保護を受けるには、例えば東京の場合は、世帯収入が13万円(年収に換算して156万)以下、家族や親族などの身内から援助を受けられない人等、いくつかの条件がある。支給額は世帯の状況によって異なるが、支給されることによって実質的には「貧困線」を脱するケースはあり得る。ただし、生活保護は「所得」ではないので、統計上は、生活保護を受けたことでただちに「貧困線」を脱したということ自体にはならない。そのため、当初の相対的貧困率が下がる訳ではない。
しかし、「再分配後」の「貧困線」については脱するケースもあるかも知れない。そのため、ワーキングプアとの関係性について取り沙汰されることもあるが、生活保護の場合、自動車等、所有物の制限等は依然として残り、生活面で様々な差し障りは残る。なお、日本の相対的貧困率は15.4%(2018)、生活保護を受けている人はおよそ200万人で、保護率は1.65%。ざっくりだが、相対的貧困層の1割が生活保護世帯と捉えてもいいかも知れない。
※という具合に補足してはみたが、貧困線については、今ひとつイメージが掴みにくいかも知れない。
そこで、次回は、少し、見える化を図ってみることにする。