【共通テスト対策】フクフクちゃんの現代社会・倫理・政治・経済

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【今日の時事問題】アファーマティブ・アクションをめぐって

多様性にかかわる共通テスト問題の一例

前回、「多様性」や「包摂性」が人権保障のスタンダードになってきていることに触れた。2022年の「現代社会」でも、それに関わるような判断問題が出題された。

■それぞれの個性や能力を承認し、一人ひとりの活躍を活かす取組みとして抵当でないものを選べ。

①ある企業ではこれまでに管理職に就く女性が少なかったので、女性管理職比率の管理目標を引き上げた。

②ある企業では資金調達のため、株主だけでなく、一般の投資家に対しても財務情報を公開し、幅広い人々にその企業の株式購入を促した。

③ある企業ではこれまで障害者の参加できるスポーツ大会が少なかったので、ルールや用具を工夫することですべての人がともに楽しめるスポーツ大会を企画した。

④ある自治体では同性カップルが生活をする上で多くの困難があったが、同性パートナーシップ制を導入することで、家族向け公営住宅への入居を可能にするなどした。

 

①は女性、③は障害者、④同性カップルといった、「マイノリティ」の活躍を促すもの。

②だけは異質で、「それぞれの個性や能力を承認し、一人ひとりの活躍を活かす取組み」には当たらない・・・
こうした判断ぐらいはしたいものだが・・・

アメリカでの入学選考にかかるアフーマティブ・アクション

一方で、アメリカにおいては、「マイノリティ」を支援し、「多様性」を確保するための政策であった、大学入学にかかわる「アファーマティブ・アクション」(積極的差別是正)に対して、今回、違憲判決が下された。

ハーバード大学などが入学選考で採用している黒人やスパニッシュ系といった特定の人種を優遇する措置について、白人やアジア系志願者の入学機会を不当に奪っているとして、訴訟が起こされていた。

アファーマティブ・アクション」は1960年代から取り入れられていたものであるが、これに対して、連邦最高裁は「人種を考慮して合否を決めることは、法の下の平等を定めた合衆国憲法に反する」と判断。

連邦最高裁がトランプ政権下で保守系6、リベラル派3と、保守派の裁判官の比率が高まったことから、今回違憲判決が出るのではないかと予想されていたが、その通りの結果となった。

アメリカと日本の最高裁裁判官の選出等の違い

なお、横道にそれるが、受験生諸君は、以下のことはインプットしておきたい。

アメリカの最高裁判所の裁判官

アメリカの最高裁判所の裁判官は、「大統領」が指名し、「上院」の承認によって就任する「終身制」。
任期も定年もないので、前任者が死去しなければ新しい裁判官は任命されない。新たな裁判官を選ぶ場合は、「その時の」大統領と、上院の政党力学に左右されることになる。

2020年にリベラル派で名高かったギンズバーク判事が亡くなり、その時大統領であったのがトランプ氏。もし民主党政権であったらリベラル派の裁判官になっていたであろうが・・・まさに、タイミングなのだ。
任期と定年を定めるなどの修正をはかるべきであるという意見もあるが、まだ具体的な改正の動きはないそうだ。

なお、バイデン政権下でも、最年長のリベラル派の裁判官がバイデン大統領在任中に後任を指名できるよう「引退」、後任に「黒人女性」が初めて就任するなど、いろいろと駆け引きで人事が動いている。

日本の最高裁の裁判官

これに対して日本の最高裁の裁判官は内閣総理大臣が指名、国会の承認はないが、70歳を定年としている。

また、国民による国民審査を受けるが、国民審査は形骸化しており、不信任の判断を下された最高裁判所の裁判官はいない。

アメリカのように二大政党が交互に政権を担う政治状態ではないので、政府・自民党による指名が続いており、そのため政府寄りの憲法判断をする傾向があることが懸念され続けている。

アフーマティブ・アクションに対する「違憲判決」の背景

話を戻そう。
で、今回のアメリ最高裁の判断が、では、保守派による「多様性」の否定であるのか・・・ということになると、一概にそうは決めつけられないところもある。
確かに、「白人」保守派の強い声を反映したものであることは間違いないであろうが、時代と共にアファーマティブ・アクションが進んだら進んだで、「逆差別」を感じる人が出てきて、その「公正性」が疑問視されてきたという背景があった。
また、どこかの時点でいずれ是正措置を中止しないと歪なものになってしまいかねない、どの時点でどういう基準で是正が完了したと判断するのか、という議論もあったようである。

アメリカの人種構成の変化

そうしたなか、アメリカの人種構成も変化してきて、今回の動きには、アファーマティブ・アクションの対象外である「アジア系アメリカ人」からの異議申し立てによるものであるようだ。

2020年のアメリカ全米での人種比率は、
・非ヒスパニックの「白人」が初めて6割を切り57.8%、
中南米系の「ヒスパニック」が18.7%、
・「黒人またはアフリカ系アメリカ人」が12.1%、
・「アジア系アメリカ人」が7.2%。

ここのところ、ヒスパニックとアジア系が割合を高め、この他、混血「ミックス」も増加しているようだが・・・
一つには、急増しつつあるアジア系アメリカ人が、他方でマイノリティであるにもかかわらず、アファーマティブ・アクションの対象外とされていることに対して、「差別である」と訴えかけてきたという構図のようである。

「マイノリティを守る制度が別のマイノリティの権利を侵害」しているということか。

ハーバード大学の人種構成

ところが、NHKの「国際報道2023」によると、ハーバード大学では、この訴えに真っ向から反論していたようだ。というのも、2017年段階でのハーバード大学の学生の割合は、白人40%、アジア系24%、黒人14%、ヒスパニックが13%であった。

アメリカに渡ってきたアジア系が教育熱心ということが背景にあるのであろうが、実は、アジア系学生の割合は極めて高いという訳だ。

また、ハーバード大学側は、アファーマティブ・アクションが廃止されたとしたら、白人とアジア系は増加、それぞれ48%と27%に、黒人とヒスパニックは減少、それぞれ7%と9%に・・・という試算も発表、「多様性」が失われると警鐘を鳴らしていたとのこと。

違憲判決の真相???

となると、「マイノリティを守る制度が別のマイノリティの権利を侵害」しているという主張はいささか説得力を欠くことになる。かと言って、現状のアジア系の在籍率の高さから言って、「アジア系アメリカ人アファーマティブ・アクションの対象に」という判断にもなるまい。また、アジア系と言っても多様で、アジア系としての一体感を持たない人も多いとのことで、そのような動きも生じていないようだ。

で、結果的には、これまでは、「多様性確保のための選考理由の「一つの要素としてならば」人種の考慮は認められる」との判断であったが、そもそも「人種の考慮」自体が違憲アファーマティブ・アクションそのものの廃止と舵を切ることになった。

確かに、原告団が言うように「白人にも貧しいものがおり、黒人にも豊かなものもいる。」また、何をもって「公正」とするか、難しい問題ではある。しかし、依然として人種的マジョリティとマイノリティの較差は大きいのも事実であろうし、「是正が完了した」と判断する証左もない。

となると、やはり、今回の判断は、アジア系の訴えというより、それを後ろから支えたマジョリティの白人保守派の、人口割合の減少という「危機感」からの訴えを保守派が慮り、数の上で優勢となった、言わば政治力学によっての転換ではないか・・・と思わざるを得ないところもある。

 予測だと2060年には、非ヒスパニックの「白人」は5割をきるという。人数だけで言うと「非白人」の方がマジョリティになってしまう・・・
それに伴う不安はきっと大きいはずだ。こうした近未来をにらみながらの、大きな転換なのであろうが、果たしてこれがどうでるか?
しかし、バイデン大統領はこれに強く反発、「多様性こそがアメリカの強みだ」とし、多様性維持のための何らかの手立てをとるとしているようだが、三権分立である以上、この判断自体は覆ることはない。

ちょっと、寄り道で「女性枠」

なお、この文章を書いていたら、次のようなニュースも流れてきた。

一つは、横道にそれるところもあるが、日本では、工学部に推薦入試での「女子枠」を設ける大学が増えているとのこと。
「多様な視点で研究開発する人材を確保するため」ということであるが、かつて理学部での「女子枠」が、男子への差別という批判を受けて撤回されたことがあったが、現在は大きく変化した。人種と性別では比較にはならないが、日本も遅まきながら「多様性」を重視しだした訳か。

なお、私が大学生だった40年以上も前から「帰国子女枠」なんてなものもあったが、個人的には、優遇されているなどとは思わなかった。英語ペラペラでよく助けてもらった。やはり多様な能力や経験がある者が集また方がよいな・・・と思ってみたりしていた。

バイデン大統領の苦悩・・・目玉政策にもストップがかかる

もう一つは、バイデン大統領が目玉政策にしようとしていた、「学生ローンの一部免除措置」が最高裁によって「無効」と判断されたとのこと。

実は、アメリカでは、ハーバード大学をはじめとして、有名校は私立が圧倒的に多いが、これらの大学の学費は年間400万~500万円とのこと。世界中から集ってくる優秀な学者による少人数教育、教育環境・設備を充実させるため、とてつもなく高くなっている。

他方で、さまざまな奨学金もあり、学生は奨学生にならんと熱心に勉強する。しかし多くは教育ローンを組み、私大生の75%が、平均400万円もの学生ローンを抱えているそうだ。それが卒業後重くのしかかる。
そこで、バイデン大統領は、年収約1700万円未満の場合は1万ドル(約145万円)の、低所得世帯を対象とした補助金の受給者は倍の約2万ドル(約290万円)の返済を免除しようという、「徳政令」を実施しようとしていた。

アファーマティブ・アクションではないが、4000万人を超える人が恩恵を受けるとしていたが、これが否定された。
「政府の権限を逸脱している」とのことだが、大学に進学しない人やすでに返済を終えた人との不公平感あたりが背景にあると思われる。いずれにせよ、この判断を大統領は批判しているが、では、どのような手立てを実施していくのか、次の一手に注目したい。

 

 なお、日本でも給付型の奨学金がある。受験生諸君も、奨学金の活用も含めて、大学での学びそのものについて、今一度、なぜ大学に行くのか?を問い直し、日々を律していこう。

受験生活はつらいところもある。けど、その後が楽園という訳でもない。成績が伸び悩んだり、やることが多くて絶望的な気持ちになったりすることもあるかも知れないが、いろんな人に支えてもらっているはず。今を大切に、やるだけやってみよう。