【深める】判決文を用いた問題 ②婚外子相続差別違憲決定
前回、判例の並び替えについてテクニックを挙げた。
それらを踏まえて問題にチャレンジしてみよう。
【問題】婚外子相続差別違憲決定
次の文章は、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1と定める民法の規定が日本国憲法に適合するかどうかについて違憲の判斷を下した2013年の最高裁判所の決定文の一部である。
「事案の概要等」の文章に続く「憲法14条1項適合性の判断基準について」の内容について、以下のア~オの文章から三つ選び、論理的に整合性の取れた内容として並べ変えるとしたら、どういう順番となるか?
( ) → ( ) → ( )
ア この事件で問われているのは,このようにして定められた相続制度全体のうち,本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が,合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
イ 相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における 婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。
ウ 本件規定につき,民法が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであるとし,その定めが立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって,憲法14条1項に反するものとはいえない。
エ 今日,晩婚化が進む一方で,離婚件数及び再婚件数が増加する状況があり,再婚への制約をできる限り少なくするという要請が高まっている事情の下で,形式的な意味で上記の手段に合理的な関連性さえ肯定できれば足りるとしてよいかは問題であろう。このような場合,立法目的を達成する手段それ自体が実質的に不相当でないかどうか(この手段の採用自体が立法裁量の範囲内といえるかどうか)も更に検討する必要があるといえよう。
※民法900条4号ただし書
子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は相等しいものとする。但し嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
解答・解説
この問題も、やはり知識が必要。この問題の必須知識は「婚外子相続差別訴訟」の結果。
民法の法定相続分規定に対して「違憲判決」が出され、民法の一部が改正された。
受験生なら誰でも知っていなければならないもの。
ところが、実は、この問題の最初の設定の中にそのことがしっかりと書かれているのだ。
「次の文章は、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1と定める民法の規定が日本国憲法に適合するかどうかについて違憲の判斷を下した2013年の最高裁判所の決定文の一部である。」
だから、実は、知識として知らなくても、ヒントがある訳だけど・・・
また、共通テストはこうしたヒントを敢えて出して判断させるという手法をとることが多い訳だけど・・・
案外、そのあたりのヒントを見逃しがち。設問は落ち着いてチェックしよう。
さて、問題は5つの文章が並んでいるが、選ぶのは3つだけ。
だから、邪魔なもの2つが入っている。邪魔な選択肢を消すことと、また、どれが結論なのかな・・・という意識で読んでいくことが必要。そして、併せて並べ替えも少し意識しながら・・・
無意識に漫然と読んでは駄目。スピードが必要。
選択肢アについて
初っ端のアの結論部分に注目すると、
「当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である」とある。
これは正しいし、この言い回しから、初っ端に結論が置いてあるように思える。
「このようにして定められた相続制度」とあるから、この文章の前に「相続制度」についての説明がありそうだ・・・
結論だとは思うが・・・
でも、待て待て、全体を読んでから・・・
選択肢イについて
と、イに移ると何とまさに「相続制度」の説明。
「相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである」と、結論めいた言い回し。
イ→アが妥当かな。
選択肢ウについて
で、ウを読むと、何とアとは真逆の結論。
ということは邪魔者はこれかな。
なお、選択肢ウは、平成7年の最高裁の判決である。
今回の判決では「しかし,法律婚主義の下においても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであり,また,これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあるから,その定めの合理性については,個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され,吟味されなければならない。」とし、反対の結論に至った。
選択肢エについて
次にエ・・・何のこと?意味がわからない・・・
あっ、これは「再婚禁止期間」に関する規定のことじゃないか・・・
関係ないものがこいつか・・・
よしカット。
これは女性について6箇月の再婚禁止期間を定めた判決文からもってきたもの。
これも時代とともに動いている。これまで「女性は、前婚の解消又は取消しの日から起算して6ヶ月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。」と規定していた。
しかし、平成28年度の判決を受けて100日間に短縮された。
この判決文も知っておくとよいので、次回は、この判決を取り上げる。
選択肢オについて
最後はオ・・・何やら素っ気ないな・・・
「~は、当裁判所の判例とするところである。」という言い回しは、文字通り裁判所が、法解釈についてこれまでの裁判例を踏襲することを意味し、具体的検討の前段階、抽象論であることが多い。
そして、「法の下の平等」という憲法についての内容が述べられており、民法の規定である相続制度の前提の話をしていると考えられる。
ということは、これが初っ端の「一般論」かな・・・
結論
そうすると、オ→イ→アかな・・・
オ 法の下の平等の意義
イ 相続制度と立法裁量
ア 嫡出子と非嫡出子の区別は立法裁量を超えるか
オ 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである。
イ 相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における 婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。
ア この事件で問われているのは,このようにして定められた相続制度全体のうち,本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が,合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
その順で読んでみると・・・よし、流れは良い。これでいい。
・・・と3分程度で判断できれば最高だけど・・・多分5分は右往左往するかな?
だから、この問題が出たら「後回し」するのも一つの手だけど、こうして演習でコツをつかんだら、もし、本番で出たら、しめしめと思ってやってみてもいいかも。