共通テストでは、判例の並び替え問題が出題される可能性がある。
読解力・思考力を高めるために判決文を用いた問題に取り組んでみよう。
1回目は大学入試センター平成30年「試行調査問題」現代社会より在外選挙権制限違憲判決。
「試行調査問題」在外選挙権制限違憲判決
現代社会の「試行調査問題」で判決文の並べ替えが出題された。共通テストではまだ出題がないが、今後、出題される可能性はある。試行テストにぜひ取り組んでみよう。第3問(22ページ)の問5がそれだ。
問題を確認した上で、解説を読み込んでほしい。
解説
これは、日本国民で国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない者(在外国民)の国政選挙における選挙権の行使を制限することが、日本国憲法に適合するかどうかについて判断を示した 2005 年の日本の最高裁判所の判決文の一部をもとにした問題であった。
判決文の並べ替えを求めた問題であったが、並べ替え記に以下のような順番に並んでいるというヒントがあった。
ところが、この表現自体が分かりにくい。三つとも「基準」という言葉が用いられているが・・・
一般論・明確化・具体化と言われても今ひとつピントこないかも。
判決の理論構成
そこで次のように考えてみよう。あくまで一般論であるが・・・
判決は以下のような論理構成をとることが多い。
①問題提起
ある人のある権利らしきものが制約されている。
②憲法上の保障
制約されているものが憲法上保障されるかどうかという一般論 ≒ 抽象論
③権利の制約
制約される権利の重要性やその制約の程度、衝突する可能性のある他の権利とのバランスなどを考えてみて、権利の制約にやむを得ない理由があるかどうかを検討する。
≒ 検討論
④審査基準の定立・あてはめ
具体的な審査基準(・・・のような場合のみ制限が可能になる・・・等)を示しつつ、事案をその基準にあてはめて判断する。 ≒ 結論
審査基準については以下の記事を参照。
※結論は、「よって」という接続詞が使われることも多い。
「したがって(中間項)」→「よって(結論)」
常にこのような三段論法的な流れになっている訳ではないが、参考にしてもらいたい。
解法のテクニック
まず、上記のような論法であろうという前提で各文章を上から一読してみる。
★選択肢を削る
選択肢のうちいくつかは、判例と真逆の結論や他の判例から引用された脈略のない文章が入っていることがある。それらを見抜き 除外してしまう。
★結論部分を確定する ※これが最大の鉄則!!!
そこから前段2つを位置づけ、論理的な整合性で判斷
前段のうち、最初の文章のほうがより抽象的である可能性が高い、二つ目は肉厚になる。
≒長い文章となる可能性が高いことも判断材料に
※ただし、基本的な知識は必要
今回の場合、在外日本人の選挙権が認められたという知識がないと厳しい。真逆の結論を選んではアウト。
このアドバイスだけでは正解に至らなかったかも知れない。高校生にとっては難問。
ただし、もうひとつ解法の鉄則がある・・・
そう、★解答を利用するという手法である。
1と8だけ、先頭が単独で、怪しいかな・・・
と思いつつも、先入観はいけないので、とりあえず内容を吟味することが大切。
実践
★選択肢を削る
まず、明らかな誤文を確定すると・・・
明らかな誤文は、イである。
イ 憲法は,上記のように投票の機会を保障しているのであるが,在外国民は自らの意思で日本国外に居住しているのであり,それはまた,憲法 22 条 2 項が国民に保障する外国に移住する自由をその者が享受していることを意味するのであるから,これによって実際に投票をできない結果がもたらされるとしても,それは,やむを得ない事由によるものと考えられる。
これは全員が判断できる、結論とは真反対のもの。
1 ア → ウ → オ
2 イ → エ → ア
3 イ → オ → ア
4 ウ → ア → オ
5 ウ → エ → イ
6 エ → ウ → ア
7 エ → ウ → イ
8 オ → エ → イ
そうすると、何と5つも除外できる。
そうなると、1.4.6の三択でしかない・・・
高校生の試験、こうした優しい配慮がなされているのが共通テストなんだ。
で、1.4.6の組み合わせを検討すると、6だけエが入っていたり、結論部分が6だけオではない・・・
こいつは怪しい・・・
1 ア → ウ → オ
4 ウ → ア → オ
6 エ → ウ → ア
★結論部分を確定する
じゃ、結論部分はアとオ、どっちか?
ア そして,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは,憲法 15 条 1 項及び 3 項,43 条 1 項並びに 44 条ただし書に違反するといわざるを得ない。また,このことは,国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても,同様である。
オ 在外国民は,選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格を有しないために,そのままでは選挙権を行使することができないが,憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく,国には,選挙の公正の確保に留意しつつ,その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって,選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り,当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。
オは「~あるというべきである」という表現につき結論にふさわしい終わり方・・・
さらに、やむを得ない事由を除いて、在外日本人の選挙権が認められるという結論も書いてある。
アを読んでみると・・・
どのような場合に選挙権の制限が憲法違反になりうるか、抽象的規範が定立されているが、
在外日本人の選挙権が認められるかどうか、一番大事なことが書かれていない。
これは結論ではないな・・・と判断できるはず。
前段2つの位置付け
結論がオだとすると、1か4かというところまで絞れる。
エは自然と除外される。ありがたい・・・
1 ア → ウ → オ
4 ウ → ア → オ
では、ウが先か、アが先かと斟酌してみると、アの冒頭は「そして」という接続詞。
さらに、「上記のやむを得ない事由」という表現。これより前にやむを得ない事由について言及しているはず。
これは先頭に来ない。で、ウ→アでうまくつながるか読んでみると・・・
ウ 憲法の以上の趣旨にかんがみれば,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。
ア そして,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは,憲法 15 条 1 項及び 3 項,43 条 1 項並びに 44 条ただし書に違反するといわざるを得ない。また,このことは,国が国民の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国民が選挙権を行使することができない場合についても,同様である。
オ 在外国民は,選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格を有しないために,そのままでは選挙権を行使することができないが,憲法によって選挙権を保障されていることに変わりはなく,国には,選挙の公正の確保に留意しつつ,その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって,選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合に限り,当該措置を執らないことについて上記のやむを得ない事由があるというべきである。
よくつながっているではないか。
ウ 「やむを得ないと認められる事由がなければならないというべき」
ア 「上記のやむを得ない事由があるとはいえず」・・・「違反するといわざるを得ない」
そして、結論部分と思われるオとのつながりを再確認してみると
オ 「その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるのであって」
と、しっかりと在外日本人の選挙権付与の措置をとるべきだという結論を語っている・・・
よし、これでいい。じゃ4だ。
共通テストは30問、平均すると1問に2分・・・
従って、こうした時間のかかる読解問題をいかにスマートに・・・
3分程度で解いてやるか・・・
難しいがこれも演習量で乗り越えるほかはないかな。
で、ここでもう一つアドバイス。
判決文は、様々なことに目配りしながら陳述しなければならないため、まどろっこしいが、大事な部分だけ下線を引いてやると(上のウで言えば「やむを得ないと認められる事由がなければならないというべき」といった部分)、そこで結局何を言っているかが浮かび上がってくる。
ただ漠然と文を読むのではなく、「重要部分」を見抜き、それをもって判断しよう。
・・・頑張ろう、受験生。