【今日の時事問題】格差の実相 その5
※以下の文章を読んで、最後の「 」の部分、どんな会話が展開されたか考えてみてください。
先生、前回の「母子世帯」の家計状況、ショックでした。
そうだね。同じ子育て家庭でも、夫婦二人で育てている世帯とでは、経済的に大きな格差があったね。
それと、そもそも子育て世代の家計状況は、高齢者世帯以上に、生活が苦しいと感じている人が多いのには驚きました。
もちろん高齢者世帯の人の中には、働くことができず、生活保護に頼らざる得ないケースもある。
一方で、子育て世代の場合は、働いて稼いでも、出ることが多く、その点で厳しいんだろうね。だから、岸田内閣も、子育て世代への支援を打ち出した訳だ。
私も、親に頼ってばかりで・・・でも、そうしたなか、やっぱ、母子家庭の場合は所得が少なく、やりくりが厳しいんでしょうね。
前回触れなかったけど、父子家庭と比較すると、かなりの経済的格差があるそうだ。
となると、格差の背景には、ジェンダー・ギャップもあるのでは?
残念ながら、日本の場合、男女間の賃金格差が相変わらず是正されていない。男性一般の給与水準を100だとすると、女性一般労働者の給与水準はどのくらいだと思う?
そうですね、80くらいですか?
いいところだけど、75ぐらいかな。
それって、国際的に見てどうなんでしょうか?
OECDの平均では88ぐらい。
となると、日本は男女の賃金格差はかなり大きいということですね。でも、なぜ、差がつくのですか?
どんなことが考えられる?
うーん、女性の場合、管理職が少ない・・・それから、パートなどの非正規が多い・・・
おっ、鋭い・・・でも、それって、学校で習ったの?
習ったとは思いますが、それより、何となくそうなんだろうな・・・という感じです。
確かに、残念ながら実際そうなんだ。「ガラスの天井」がある。でも、これって、変えていかないとね。
先生、「ガラスの天井」って、どういう意味ですか?
十分な資質・実績があっても、女性やマイノリティを一定の職位以上には昇進させようとしない組織内のバリアのことだよ。
具体な数字をあげてみよう。
内閣府が出した「⼥性活躍に関する基礎データ」によると、就業者に占める女性の割合は2021年は44.7%で、諸外国と比較して大きな差はない。
けれど、管理的職業従事者に占める女性の割合は、わずか13.2%。諸外国ではおおむね30%以上となっているから、相当低い。
ちなみに、女性の管理職、大企業と中小企業ではどちらの方が率が多いと思う?
やっぱ、先進的な大企業の方でしょう。
ブブー・・・中小企業の方がまだ多い。5000人以上の大企業は8%程度のようだよ。大企業はまさに男性中心。なお、係長、課長、部長といった職位についても、上位の役職ほど女性の占める率は低くなっているそうだ。となると、当然賃金に差が出る。
先生、ということは、非正規では子どもを養っていけないから、母子世帯の場合、正規雇用で頑張っている、ということですか?
先生、正規と非正規ではどの程度所得が違うんですか?
おっ、いい質問だね。聞かれると思って、データをもってきていたよ。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、賃金月額について、男性では、正社員が月額35.4万円に対し、非正規が24.8万円、女性では、正社員が27.7万円に対し、非正規が19.9万。男性正社員を100とすると、男性非正規社員は70、女性正社員は78、女性非正規は56となる。ただし、これまでみてきたように、税金や社会保険等によって、格差はある程度は是正されるけど、賃金自体でみると相当な格差がある。
先生、それから、もう一つ気になっているのがあるんですが・・・
おっ、いいね。引っかかりをもつってことは大事だよ。
はい。職種によっても当然賃金は違いますよね。で、女性が主に従事している職種の賃金が低いんじゃないかと。看護師などの「エッセンシャル・ワーカー」の給料が割に合わない、ということが問題になったはずです。
おっ、君、鋭い。で、「エッセンシャル・ワーカー」ってどういう人?
看護師や介護士、保育士といった、確か、「人々の生活にとって不可欠な労働者」という意味だと思います。物流を担う人もだったかな・・・
そうだね。むろん職業に貴賎はなく、どんな仕事も社会貢献なんだろうけど、コロナ禍のリスクの中、対面で人のために働き、日常生活を支えている人たち、この他にも、病院の清掃員や、スーパーの店員さん、実は教員だってそうだと思うけど、割に合わないと感じるほど低賃金を余儀なくされている仕事もあるよね。それが一時クローズアップされたよね。で、どんな対策が取られたか、知っている?
うーん、それは知りません。
例えば医療従事者や介護職員については一時的な「慰労金」が国から支払われたようだ。
でも、そもそも、特に人の「ケア」に関する仕事は一般的に低賃金のままあまり改善されていないという指摘もある。そして、その仕事に就くのが主に女性、そのため結果として、女性の賃金が相対的に低くなってしまっているのでは?
不可欠な仕事なのになぜ給料が安いのですか?
うん、難しい質問だね。そうだね・・・こう考えてみてはどうか?
従来、「男は仕事、女は家庭」といった性的役割分担があった。介護とか育児とかは、これまで女性が家庭の中で担ってきた。それは女性の役目であって労働ではない、と。
もちろん現在は、こんな固定的な役割分担自体は否定されているけど、ただし、介護や育児は、あくまで「生産」そのものではない。資本家は「生産労働者」には相応の賃金を出す。だからある程度の安定性が保障される。
しかし、直接的には生産活動には結びつかない介護や育児は、労働としての価値が低く見られてしまうのではないか・・・。育児や介護が家庭から「社会化」されたけど、一部の高級介護施設や私立の幼稚園は除くとして、一般的な育児・介護施設は経営が厳しく、安い賃金でぎりぎりの運営をしているのではないかな。
先生、ここにも、固定的な男女の役割分担の陰がある・・・ということですね。
君、なかなかうまいまとめ方をするね。そう、まだ陰を引きづっているんだよ。でも、「ケア」にかかわる仕事は不可欠なものとして、我々の価値観を変えていく必要がある。決してタダではない。
そこで、ひとつ、ある思想家を紹介しておく。フェミニズムにも影響を与えたアメリカの心理学者ギリガンという人。彼女は、「他者を気遣い配慮する」ことは道徳的に成熟したものであると、ケアの倫理を高く評価している。確かに、好きなように生きている私からすれば、介護や看護、育児で奮闘している人々には頭が下がる思いだ。
ただしね・・・ケアは、どうしても母性と結び付けられがちになるよね。で、これもある意味で思い込みだけども、しかし、母子世帯だと、どうしても母親が自分が頑張らなくてはと思う場合も多いんだろうね・・・
「ひとり親の子だから・・・」と言われたくない。子どもに負い目をおわせたくない・・・
となると、お母さんは心理的にもしんどいよね。
先生、では、ひとり親家族への支援にはどのようなものがあるんですか?
母子世帯全部が全部、全額支給されている訳ではないというところ、大事ですよね。
そう、本当に君は鋭いね・・・そういう決めつけが怖いんだよね。でも一方で、満額もらっている人が怠けているという訳でもない。それぞれ個別の状況があり、場合によっては、生活保護に依拠する場合もある。だから、大事なことは、誰かとつながるということかな
えっ、どういうことですか?
先生、ニュースで見ました。岡山市では「コミュニティ・ブリッジ」という公共の冷蔵庫が駅の近くに設置され、登録した人は24時間、提供された食料品等を利用できるんだそうです。
おっと、素晴らしい。忙しいのにニュースを見てるね。
たまたまですが、印象に残っていました。
私も手伝いたいな。
君みたいな若者がいると、希望を感じるな。で、最後に大事なことは、単なる支援に終わらないこと。ひとり親の親さんたち、その子どもたち、「支えられるだけ」でいいのかな?・・・どうかな?
そうか、先生。「 」ことが大事なんですね!!!
そうだ。だから、私の雑草だらけの畑で、今度、一緒に野菜づくりでもしようかと考えているんだ。
いや~先生、段々と大事なことが目に見えるようになりました。
いや、何を言うか、まだまだ、はやいぞ。まだまだ目に見えない大事なものがある。次回は君たち「若者」について触れる。
※「 」に入る素敵な会話文があれば、お便りください。