時事問題で、ウクライナ戦争による食糧危機について触れるとともに、日本の食料自給率について言及した。
- 「読解力」「思考力」を問う問題
- 【予想問題】カロリーベースと生産額ベース
- 【コラム】カロリーベースと生産額ベース
- 【コラム】食料国産率という指標
- 【予想問題】食料自給率の推移
- 【予想問題】食品ロス、フード・マイレージ、地産地消、バーチャルウォーター
後者の食料自給率については、共通テストで「読解力」「思考力」を問う問題の出題の可能性がある。例えば、こんな感じだ。
「読解力」「思考力」を問う問題
○以下は食料自給率の国際比較である。
出典:農林水産省 世界の食料自給率 諸外国・地域の食料自給率等
上記のグラフでは、「カロリーベース」と「生産額ベース」の二つの指標がある。
それぞれどのようなものなのだろうか?
【予想問題】カロリーベースと生産額ベース
以下は二つのものさしについて示したものである。
出典:農林水産省 令和2年度 食料自給率・食料自給力指標について(PDF)
第7項 カロリーベースと生産額ベースの⾷料⾃給率(令和2年度)
このグラフを参考にして、それぞれの指標に関して述べた文章について、誤ったものの組み合わせを判断しなさい。
①栄養価である熱量(カロリー)に着目したものが「カロリーベースの食料自給率」で、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標である。
②カロリーベースでは、米、小麦や油脂類が占める割合が高いが、単位重量当たりのカロリーが高いことが影響していると考えられる。
③カロリーベースに占める割合が高い小麦と油脂類は海外依存度が高く、カロリーベースの自給率全体が低くなる一因となっていると考えられる。
④「生産額ベースの食料自給率」は、食料の国内生産額÷食料の国内消費仕向額×100で計算される。
⑤生産額ベースでは、畜産物や野菜、魚介類が占める割合が高いが、それらの単価が高いことが影響していると考えられる。
⑥畜産物や野菜、魚介類は、総じて国産品より輸入品の方が高いので、国内生産額が増え、結果として生産額ベースの自給率はカロリーベースより高くなるものと考えられる。
⑦二つの指標とも、輸入された餌で育った畜産物は、国内で育てられたものだとしても算入しない。日本は飼料を輸入に頼っているため、カロリーベース、生産額ベースともに食料自給率は低くなる。特にカロリーベースでは穀物のカロリーが高いことから、畜産物の自給率は20%を切った形となる。
⑧カロリーベースの場合、消費された熱量なので、食べられずに廃棄された食品ロスは計算に入れられないため、生産額ベースと比べて自給率が低くなる。
A①と③ B②と④ C⑤と⑦ D⑥と⑧
※どうだったろうか?選択肢は4つと簡単にしたため、答えは分かったかと思うが、一つひとつ○か✕かだとかなり難しいのでは?
答えはD。
⑥畜産物や野菜、魚介類は、総じて国産品より輸入品の方がむしろ「安い」。逆に言うと、国産品の方が高いので、そのため総じて国内生産額は高くなり、結果として生産額ベースの自給率はカロリーベースより高くなる。というのが正解。国産牛と輸入牛の値段の違いを連想したいところ。
⑧の「食品ロス」は、上記の参考グラフにはない情報。こういう場合は疑ってかかった方がよい。また、よく読むと、「論理的矛盾」に気づくはず。「食べられずに廃棄された食品ロスは計算に入れられない」と「生産額ベースと比べて自給率が低くなる」はどう考えてもしっくりこない。実は、カロリーベースの分母は国内市場に出回った農産物の熱量全体で、食べられずに廃棄された食品ロスも分母にいれられ、そのため生産額ベースと比べて分母が大きくなり、それが故に自給率が低くなる」というのが正しい。
以上、ややっこしい問題を作ったが、ここで頭に入れておくとよいのが、以下の2点
【コラム】カロリーベースと生産額ベース
日本は、カロリーベースを基準としているが、国際的には生産額ベースがスタンダードとのこと。カロリーベースって、本当に指標として適切なのか?それを基準にするのはどうか?という批判もある・・・生産ベースなら、日本はそれほど深刻ではない・・・しかし、逆に、カロリーベースを基準にすることで、「危機感」を感じさせことができる・・・といった「陰謀説」?もあり・・・結構問題を孕んだ数値のようだ。
【コラム】食料国産率という指標
○農林水産省が新たに、「食料自給率」とは別の「食料国産率」という新しい指標も使用するようになったこと。食料自給率は、⾷料安全保障を図る上で「国内⽣産」を厳密にとらえるため、輸⼊飼料による畜産物の⽣産分を除いて計算していたが、「食料国産率」は、飼料自給率を反映させず、飼料が国産か輸⼊かにかかわらず、 畜産業の活動を反映し、国内⽣産の状況を評価するもの。⽇ごろ、国産畜産物を購⼊する消費者の実感と合うものとして併用するとのこと。このあたりの違いも知っておくと、案外、役に立つかも。
【予想問題】食料自給率の推移
また、以下のような出題も想定される。常識的な推測力を問おうとしたものだ。
以下のうち、米、大豆、肉類はどれか?
「イ」が米は簡単。
で、大豆と肉類であるが、もし肉類が「ア」だとすると、日本のカロリーベースはとんでもなく低くなる。
肉は「ウ」で50%程度。一方、大豆は豆腐などに使用されている非常に大切なものだが、国内では大豆栽培は採算的に厳しいためほとんどが輸入に頼っている。
なお、食料の並びから鶏卵・牛乳の前にある「ウ」は・・・やっぱ、肉じゃない?・・・という感覚から選択する強者もいるかも?
なお、問題にはしていないが、もし「果実」がどれかと問われたら答えられたであろうか?
1960年は100%国産だったんだね。今やオレンジ、チェリーなどたくさんの果物が海外から輸入されているが、私が幼い頃1960年代半ば、都会地から叔母がバナナを一房抱えて土産として持参してきたのには驚いたものだ。
そのバナナも、物価の優等生として日本の食卓に根付いてきたが、今、エネルギー危機等で、現地から値上げ要求が高まってきたそうだ。フェア・トレードの観点からも、これは甘受すべきかな。
【予想問題】食品ロス、フード・マイレージ、地産地消、バーチャルウォーター
最後にもう一点、食料自給率と関連があるものに、食品ロス、フード・マイレージ、地産地消、バーチャルウォーターなどがある。以下の文章の正誤を判断してみよう。
①食品リサイクル法は食品関連事業者に、食品廃棄物等の発生抑制、再生利用、減量などの取り組みを実施するよう求め、年間100トンを超える食品廃棄物が発生する事業者には、再生利用等を促進するよう義務付けられた。
②食品ロス削減推進法が制定され、ホテル・飲食店・病院・大規模イベント会場などでは、余剰食品を廃棄せずにフードバンクなどへ寄付することが義務となった。
③食糧の輸送に伴う環境負荷を測る指標であるフード・マイレージとは、食料の生産地から消費地までの輸送について、輸送手段と輸送距離を基に算出されるものである。
④バーチャルウォーター(仮想水)とは,輸入する農産物等に含まれる水分量を推計したもので、食料自給率が低い日本は海外の水資源に依存しているということになる。
①→○ 年間100トンを超える食品廃棄物が発生する事業者には、再生利用等を促進するよう義務付けられた。なお、日本では6割がリサイクル、焼却・埋め立てが4割が現状とのこと。埋め立ては「メタンガス」が発生し問題視されている。
②→✕ アメリカなどではこうした取組を法律で定めた州もあるが、日本の場合は理念法で罰則等もない。
③→✕ イギリスのNGOによるフードマイルズ運動の考え方を参考に、農林水産省農林水産政策研究所において開発された指標で、食料の重さ(トン)×距離(キロメートル)。輸送距離が長く・重量が重くなるほどフード・マイレージは大きくなる。
④→○ 食料自給率が約37%の日本は、相当量、海外の水を消費していることになる。 東京大学生産技術研究所の試算によると、バーチャルウォーターの年間総輸入量は640億m3。国内で1年間に使用する水の量は約800億m3で、その8割に相当する量とのこと。なお、日本は水に恵まれていると言われてきたが、実際に利用できる水の量は少なく、1人あたりの水資源の量は世界平均の半分以下に過ぎないとのこと。