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【今日の時事問題】侮辱罪の厳罰化にみる法改正の実際

 

インターネットにおける誹謗中傷が後を断たないため、それに歯止めをかけるべく、侮辱罪の厳罰化が図られた。この法改正の背景とともに、このケースを事例に両議院での法改正の実際を知っておこう。

 

名誉毀損と侮辱

誹謗中傷は、現在の刑法では「名誉毀損」、あるいは「侮辱」であると判断されれば、刑事罰の対象となる。

名誉毀損
第230条1項
公然事実を摘示し人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

(侮辱)
第231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

名誉毀損は、「公然」と、「具体的な事実を摘示」して、「社会的な評価を低下させる」もの。

「○○さんは自宅に大麻を隠し持っていた」といった発言などが該当する。それがデマであれば当然、たとえ事実であったとしても名誉毀損にあたる場合もあるという。3年以下の懲役か、50万円以下の罰金。懲役のケースも多い。

 

一方、侮辱は、「公然」と、具体的な事実を摘示せず、名誉感情を害するもの。

「ハゲ」、「ブラック企業」といった発言あたりが該当する。30日以内の勾留か1万円以内の科料。勾留されることはほとんどないようで、科料のみの最も軽い刑罰。

(法人に対しても名誉毀損及び侮辱は成立する。)

誹謗中傷に対する厳罰化への動き

プロレスラー木村花さんがSNSで中傷され自死、これに対して、投稿者2名が科料9千円の刑罰・・・このような軽い刑罰では意味はないのでは・・・ということから、誹謗中傷に対する厳罰化への動きが高まっていた。

 

なお、アメリカは名誉毀損のみで侮辱罪はなし、イギリスにいたっては名誉毀損罪、侮辱罪ともになし、それは民事訴訟で争えばよいという考え方。国によって違いがある。
以下、この法改正をめぐる動きを新聞報道をもとに整理してみる。

 

この法改正は、まず3月8日に、全閣僚の合意が必要な重要事項として、政府が「閣議決定」したところからスタートする。法改正を伴うものなので、当然、国会で審議されなければならず、まずは4月21日に衆議院で審議入り。承知の通り、予算は衆議院に先議権があるが、法律案は、衆議院参議院どちら側からでも審議入りできる。ただし、ここのところ重要法案については衆議院で先に審議されることが多くなってきているとのこと。また、重要な法律案については、本会議で趣旨説明を聴いた後、委員会に付託されるケースが多く、今回の侮辱罪の厳罰化も、まずは本会議で趣旨説明と質疑が行われ、委員会に付託された。

 

で、その衆議院の法務委員会では、現在は拘留と科料しかない侮辱罪の法定刑に、1年以下の懲役と禁錮、30万円以下の罰金を追加する内容の与党改正案が提示された。

 

一方で、立憲民主党が、「『○○は死ねばいいのに』といった個人の意見や感想は侮辱に当たらないため、いくら厳罰化しても処罰できず、メリットは疑わしい」とし、電子メールやLINE(ライン)などを使った少人数の中での誹謗中傷も対象とする「加害目的誹謗等罪」を新設した対案を提出した。

また、厳罰化が政府による言論弾圧につながると批判、法定刑を「拘留または科料」にとどめ、公共性や真実性がある場合は罰しない特例を設けることで、政治家への正当な批判に対する処罰を防ぐべきだと主張した。

 

他方、自民党側は「加害目的誹謗等罪は公然ではない侮辱も規制対象となり、かえって表現の自由が制限される」などと主張し、立憲民主党の対案を批判した。委員会では、木村花さんの母親響子さんも「参考人」として意見陳述を求められ、中傷被害のない社会になることへの願いが語られた。

 

野党も、「言論の自由の萎縮」を危惧しつつも、インターネット上の誹謗中傷による人権侵害の抑止についてはどの政党もその推進の必要性を認めたのであろう、与野党の調整の結果、3年後に表現の自由に対する不当な制約になっていないか、外部有識者を交えて検証する「付則」が追加されて、侮辱罪厳罰化を含む刑法改正が18日法務委員会、19日の衆院本会議で、自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、参院に送付された。可決までおよそ1ヶ月かかった。

 

次いで、この刑法改正案は5月20日、参議院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。そして法務委員会で審議され、やはり表現の萎縮にかかわる疑義が出されたが、参考人質疑などを経て、6月10日に委員会内で可決、13日に本会議で賛成多数で可決した。衆議院よりやや速い可決ということになる。

 

法改正のしくみ

で、ここで確認しておきたいのは以下のこと。国会は150日間と決まっており、第208回国会(常会)は、令和4年1月17日に召集されたので、会期は6月15日まで。それまでに参議院で可決されないと法改正にならないということである。こうした終期を見据えながら、できるだけ慎重審議に努めつつも、法の制定、改正を目指す訳だ。

しかし、もし与党による重要法案の可決が間に合わないというようなことになりそうなら、与党が野党の合意を得られないままに行う「強行採決」という荒業も。これには当然風当たりが強く、与党も避けたいところ。

場合によっては、成立を見送ることもあるが、会期の「延長」を選択することもあり。通常国会の場合、1回だけ延期でき、その期間は与野党協議で決められるが、今年の場合は、参議院選挙も控えており、延長なしで閉会する。

 

なお、仮に、今回の侮辱罪厳罰化について、参議院で「修正可決」された場合は、先に審議した衆議院に回付し、衆議院がその修正に同意したときに法律となる。その場合は、その分だけ時間がかかるので、場合によっては会期の延長の必要が出てくる。
このようなしくみになっていることも理解しておこう。

 

最後に、インターネットと人権、受験生も、被害者にも加害者にもならないために、しっかりとした知識をもち、責任ある投稿をしよう。自由には責任が伴う(サルトル)。