ロシアによるウクライナ戦争にともなって、ロシアへの経済政策の一環として、ロシアの主産業であるエネルギー輸入の制限・禁止という措置が取られつつあることは承知のことかと思われる。ただ、各国ともエネルギー事情に違いがあり、対応は一様ではない。
- 各国のエネルギー事情を整理
- 原油・天然ガス・石炭の産出国のベスト3
- 日本はどこからエネルギーを輸入しているか
- 主要国の1次エネルギー構成
- 試験問題として出題されそうなグラフ
- 日本の1次エネルギー構成の推移
- 日本のエネルギー計画
各国のエネルギー事情を整理
○アメリカは原油・天然ガス・石炭ともに輸入禁止。エネルギーの自給率が高いアメリカは、各種エネルギーの禁輸に踏み出し、圧力を一段と高めるねらいのようだ。
○イギリスはロシアからの原油の輸入を年末までに段階的に停止するとのこと。
※一方でEU内ではエネルギー調達方法に違いがあり、フランスは原発大国で、ロシアへの依存度は低いが、ドイツは事情が違う。ドイツは脱原発でロシアに原油の25%、天然ガスの40%を依存している。そのためドイツの対応が注目されていたが、現在のところ原油については輸入禁止の方向に転ずるようだ。
○日本も石炭の輸入を禁止した。しかし、原油と天然ガスについてはロシアへの依存度を引き下げる方向で調整か。
ということで、アメリカだけが原油・天然ガス・石炭の3種類ともに禁輸、後は部分的といったところが現状。
なお、ここのところ、ガソリン価格が高騰、高止まりが続いているが、これはウクライナ戦争前からの状況。新型コロナウィルスのワクチン接種が進んだことで世界的に経済活動が再開し原油の需要が拡大したことが主な原因のようだ。ただ、それ以外にも、脱炭素化を進めようとする動きはあるが、早急な移行が進まない中、やはり石油が優秀なエネルギーであることと、一方で供給不足の懸念もあることから、構造的な強気相場となっているとのこと。それにさらにウクライナ危機が加わり、今後さらなる値上がりの可能性も。これを第三次オイル・ショックと捉え、「再生エネルギー」を中核とした大転換をはかるべきだと考えるが、受験生諸君、どう思う?
ところで、今後の状況については不透明だが、この機会に、エネルギー関係について4点ほど補足しておきたい。
原油・天然ガス・石炭の産出国のベスト3
①原油・天然ガス・石炭については、産出国のベスト3ぐらいは知っておきたい。
■以下は2020年の原油・天然ガス・石炭の産出量の多い国ベスト3である。空欄の国を答えなさい。
・石炭 ①( ) ②インド ③インドネシア
サウジアラビア、ロシア、中国である。
なお、年によって当然変動がある。石油はかつてはサウジアラビアがトップであったが、アメリカでシェールガスが発見され、ここのところはアメリカがトップ。
日本はどこからエネルギーを輸入しているか
②日本については、それぞれどこの国から多く輸入しているか知っておきたい。
■以下は2020年の日本の原油・天然ガス・石炭の輸入先ベスト3である。空欄の国を答えなさい。
・石炭 ①( ) ②インドネシア ③ロシア
サウジアラビア、オーストラリア、オーストラリアである。
なお、原油のロシア依存度は5%程度。天然ガスのロシアへの依存度は9%程度。石炭のロシア依存度は11%程度。
ちなみに、日本の原油の輸入量は世界5位(2020年の全世界の輸入量の6%)、天然ガスは2位(同11%)、石炭も2位(同14%)。なお、天然ガスについては、パイプラインによる気化ガスと、LNG(Liquefied Natural Gas)と呼ばれる液化ガスとに分かれるが、LNGについては世界1の輸入国である。いずれにせよ、エネルギー自給率が極めて少ない日本は、海外における価格高騰の影響を受けやすい。これに円安もからまって、今後様々な産業分野で悲鳴があがってくるのではないか。
※なお、輸入量の多い順は以下の通り
天然ガス ①中国 ②日本 ③ドイツ
石炭 ①中国 ②日本 ③インド
人口の多い中国、インドはエネルギーの消費大国。今回、両国とも、対ロシアへの経済政策に加わらず、ロシアの原油、天然ガスを購入し続けているとのことだが、それもそのはず、輸入に頼っているから・・・ということか。
主要国の1次エネルギー構成
③主要国の1次エネルギー構成
■以下は2020年の主要国の1次エネルギー構成を表したグラフである。中国、ロシア、イギリス、フランス、ドイツは、それぞれA~Eのどれにあたるか、選んで答えなさい。
※「一次エネルギー」とは、加工されない状態で供給されるエネルギーで、石油、石炭、原子力、天然ガス、水力、地熱、太陽熱など。「二次エネルギー」は、一次エネルギーを転換・加工して得られる電力、都市ガスなどのこと。
まず特徴のあるものから選んでいこう。
Bは原子力、Dは天然ガス、Eは石炭の割合が高い。となるとBがフランス、Dはロシア、Eは中国か。この程度は受験生なら判断したい。
ただし、AとCは似たようなグラフ・・・これは分からない・・・。Aがイギリスで、Cがドイツだが、これはできなくてもしかたがない。地理を学習した生徒で、イギリスでは北海に原油や天然ガス資源があることを知っていれば、天然ガスが多いAをイギリスと判断できるかもしれないけど。
ただし、ドイツは今年原発を封鎖するので、今後は原子力発電がゼロになる・・・そうなると判断でき、問題として成り立つことになるけどね。
ただ、一方で、イギリスとドイツについては、「再生エネルギー」の割合が高いことは知っておきたい。今回のエネルギー危機で、ドイツはポーランドから石炭を輸入して対応しつつも、「再生エネルギー」だけで電力を供給して電気料金を軽減できた日もあったそうだ。日本も再生エネルギーの確保を加速化すべきであろう。
試験問題として出題されそうなグラフ
ちなみに、今回この文章を書くのにいろいろとネット検索していたら、経済産業省「資源エネルギー庁」のHPに、今後、問題として出題されそうなグラフを見つけたので転載させてもらう。1次エネルギーの「自給率」の変化のグラフである。
出典:グラフで見る世界のエネルギーと「3E+S」安定供給① ~各国の自給率のいま
・変化という面でみると、日本が東日本大震災の影響で原子力発電が低下し自給率ダウン、イギリスは油田・天然ガスの減退でダウン、ただしここのところ再生エネルギーでやや復活、
アメリカがシェールガスの発見で右肩上がり・・・といったところが大事かな。
・なお、原子力発電は、ウランが原料でこれも輸入に頼っているが(日本は主にオーストラリアから輸入)、万が一海外からの燃料調達が途絶えた場合でも、国内に保有する燃料だけで数年にわたって生産が維持できるため、IEA(国際エネルギー機関)においても自給率の計算に算入されているとのこと。
日本の1次エネルギー構成の推移
④日本の1次エネルギー構成の推移
日本については、1次エネルギー構成の推移もみておこう。
これも経済産業省「資源エネルギー庁」のHPのグラフを転載させてもらう。
出典:令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)
【第211-4-1】一次エネルギー国内供給構成及び自給率の推移
以下ポイントを数点上げる。
・60年は「石炭」、その後「石油」依存が高まるが、オイルショックにより見直し
・60年代から「原子力発電」、70年代から「天然ガス」の輸入を開始
・東日本大震災の原子力発電所事故で、原子力発電は一旦停止、代わって少しずつ「再生可能エネルギー」が伸びつつある
日本のエネルギー計画
最後に、こうした1次エネルギーを日本ではどのように「電源」として使おうとしているか、そのエネルギー計画についても知っておきたい。
出典:経済産業省:第1回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会
資料5 「第4次エネルギー基本計画及び今後の原子力政策検討」(事務局提出資料) 7項目
①ベースロード電源:発電単価が安く、安定供給できる
→1石炭 2「原子力」 3水力、地熱 現在、これで40%程度
②ミドル電源:発電コストが比較的安く、
ベースロード電源だけでは電力不足が生じた場合活用
→天然ガス
③ピーク電源:さらに電力が不足した時
→石油
このように三段階に分けて活用しているそうだ。
ただし、「原子力」が本当にコストが安いかは異論がある。また、今後、脱炭素化に向けて、化石燃料依存を一新しなければならないので、この計画は今後大きく見直しが図られるはずである。が、現状としてこのような位置づけであることは知っておきたい。