30年間の日本の政治的変遷をスケッチしておこう【対話編その4】

それ以前は?

確か、中選挙区制だったと思います。

おっ、よく知っていたね。ただしこれは過去のもので、よく分からないかもしれんな。どんな制度だったのか知っているかな?

うーん、よく分かりません。


小さい範囲で一人だけ選ばれるというやり方です。

そうなると?

場合によっては政権与党の圧勝になるかもしれませんが、一方で有力な野党があればアメリカのような二大政党になる可能性もある・・・ということでしょうか?

君、鋭いよ。実際、安倍政権時代は自民一強の様相を呈していた。だから、必ず二大政党になるという訳ではない。
ただし、小選挙区制は、本来は、君の言うように二大政党の実現を目指して導入された側面もある制度。この制度が導入された1994年の前年、ついに55年体制が終わり、自民党が下野、その時の野党の連立政権のもとで制度設計された訳だから、そういう期待感も込められていたはずじゃよ。
小選挙区制になると、第3党が議席を獲得することはかなり困難。1議席を争う選挙だから、各選挙区で得票において相対1位になった候補だけが当選する。そういう構造では、一般に、第1党が多くの議席を獲得するなか、第2党が第1党に挑戦する政党として多くの選挙区で候補を立てるが、第3党に割り込む力があるかと言うと厳しい。だから第2党が育った場合は、二大政党という形になる可能性が高まるという訳じゃ。これは理解できるかい?


では、先生、少数政党の連立政権は、実際は、自民党にやり込まれたということですか?

比例代表制を併用しているということですね。

そうそう。で、比例代表制はどのような特徴があるんだっけ?

死票が少ないということですか?

そうそう。それもあるね。でも、それだけかな?

あっ、そうか。
少数政党の進出が可能になる・・・ということですかね。

やっぱり、非自民の勢力がたくさん当選することになるから、あまりよいものには思えなかったのではないですか?

そうだね。そういう側面もあるよね。
でも、いくつかの、小さな政党が乱立したりすると、なかなか野党に強力な政党ができにくい・・・という側面もなきにしもあらず。
そう考えると、比例代表も決して怖くはない・・・と捉えるむきもあったのではないかな。

うーむ。難しいところだね。確かにそういう側面もあるけど、実際のところは「妥協の産物」だったんじゃないかな。
誰も先のことは見通せなかったと思うよ。
けど、とにかく、選挙制度改革は不可避。で、抱き合わせたということかな。
で、実際には、一時、二大政党制のようになり政権交代も実現した、しかし、後には自民党一強となった・・・ということなのだど・・・
ただ、ワシは、現在のような制度では、小選挙区制と比例代表制、それぞれのデメリットを補う形ではあれ、そもそも「二大政党制」に導くような制度ではないように思っている。
なお、現在、野党は、与党に対抗するために、小選挙区では「野党一本化」を試みることが多い。
これも「二大政党制」化とは相いれないしね。
野党一本化自体もなかなか難しいけど、それをやっているようじゃ、とてもじゃない、二大政党制にはならない。

先生、そもそも二大政党じゃないとダメなんですか?

そこだよ君。確かに、二大政党は分かりやすいし、政権交代も可能で魅力は感じるけど、これが日本にあっているかどうかは別問題じゃないかな。

では先生、どんな政治形態があり得るんですか?

うん。実はね、ワシはドイツのような形態もありかと思っているんじゃ。

ドイツって、どんな政治形態でしたっけ。先生、勉強不足でピンときません。

そうだろうね。でも、知っておきたいな。
3つ以上の政党がその都度組み合わせの違う連立政権を組むという「穏健な多党制」という形態じゃよ。
たとえばドイツの場合、与党は3つの政党、シュルツ首相の社会民主党と緑の党と自由民主党とが政権を樹立していた。
ところが、ついこの間、自由民主党が政権から離脱するという状況が生じた。大規模な財政出動を唱える2つの党に対して、自由民主党は財政規律を守るべきだと主張、対立が激化したことが背景だったようだ。
この結果、シュルツ政権は苦境に立つことになったが、一方で、こうした政権内での緊張関係も意義があるのではないかと思うんじゃ。 日本でも連立政権が続いている。現在自公民の連立政権だけど、場合によっては、もっと、違う形の連立だってあり得る。連立の仕方で、結構、政治は変わってくるんじゃないかなと思うんじゃ。で、場合によっては、リベラル勢力が結集すれば、政権交代も可能になる。

先生、でも、お言葉ですが、選挙結果に応じた、とってつけたような連立で政権が運営されるなら、先生が以前に批判した、国民の意思とは別の、政党間の「離合集散」にあたるのではないですか?


先生、でも、それじゃさっきの僕の質問の答えにはなっていないように思います。

なんじゃと?

なるほど。あらかじめ示しておけば、それを選択肢の一つとして国民が選ぶことになる。そうなると、国民の意思とは関係のない連立ではない・・・ということか。
君、なかなか斬新なアイデアを出すじゃないか。
でも、「連立」するなら、そもそも「合流」して選挙前に新党として審判を仰ぐというのが筋ではないか、という意見もあるはず。
どうじゃろうか?

先生、そうかも知れませんが、あくまで、少数政党には少数政党としてのポリシーがあると思います。
大きいものに飲まれず、しかし、たとえ少数でも与党政権に参画できる・・・こういうあり方だってあるのではないでしょうか。

君、随分と成長してきたね。もう、感動して、涙がちょちょぎれそう。 確かにそうだよね。
じゃあ、もうひとつ・・・予め、連立なんてなことではなく、選挙後に、存在感を発揮させるという、現在の国民民主党の手法あたりはどう思う?

うーん、やり方としては悪くはないと思います。
ある意味、巧みな手法かと。

そうか。そう思うんだ。「対決より解決」や「政策本位」といったキャッチフレーズで、連立に加わらないことで、むしろ、議案の決定権を有することができるなんて、ワシなんかからすれば、何かしら姑息な感じもしないではないけどね。でも、まぁ、そういうやり方もありということかな。投票した有権者を裏切っている訳じゃないしね。

となると、予め連立を公約するという案は、政党としては、面白みがないということになるんですかね。

鋭い。きっとそうだよね。

いや~、難しいな。でも、先生、とても面白い。 選挙制度や、政権の在り方については、もっともっといろいろな意見を出し合っていきたいものですよね。


君は、本当に高校生? いやいやごめんごめん。確かに人間は変革を嫌うからね・・・
で・・・現在の石破政権は、少数与党として、野党と相当論争を展開せざるを得なくなった訳だが、ある意味では、そういう論争をきっかけにして政権再編成へと大きく動き出す可能性があるように思うが、どう?

でも、石破首相の党内基盤は弱いのでは・・・と聞きました。

おっと、よく知っているね。そのようだね。
でも、逆に言うと、だから自民党が分かれる可能性もあるような気がするけどね。

反・石破勢力が袂を分かつということですか?

うーむ、何とも予測ができないけど、何か激変があるような。
でも想像だけでものを言ってはまずいわな。
だから、このあたりで止めとくけど、あっ、でも最後に一つだけ付け加えておきたいことがある。

先生の最後は強烈ですので、聞きたいです。どんなことですか?

えっ、昔の中選挙区に戻すんですか?それと連記制って何ですか?

おっと、食いついてきたな。
では、かつてワシが「選挙制度を深掘りする」というコラムを書いたので、これをぜひ読んでほしい。
fukuchanstudy.hatenablog.comかなり、長いけどね。 ただ、現在の状況で石破首相がこうした選挙制度改革を打ち出すのは、到底無理な話だろうけどね。けど、結構、大事な議論なので、若者にはぜひ知っていてほしい。

はいー、先生、勉強させていただきます。