円安の袋小路からどう脱却するか?
円安対策として二度目の為替介入が実施されたようだ。
しかしあくまで時間稼ぎにすぎないという指摘もある。
一方で、構造的な転換を少しずつ推進する必要もあるし、当面は円安のメリット自体を活かすことも考えなくてはなるまい。
これまで円高基調であったため、円安についてはセンター試験では問われることは稀であった。しかし来年は円安について問われる可能性が強い。
円安、円高のメリット、デメリットについては理解しているはず。
ひとまず、円安のメリットだけ簡単に確認しておこう。
円安のメリット
①「輸出」に有利。
ただし、日本の製造業はコスト削減のため海外に拠点を移したところもあり、その場合は円安の恩恵を享受できない。メリットはないということ。
また現在、アメリカを中心に海外は日本以上にインフレ。そうなると、物を買い控える。となると、日本製品は割安ではあるけど、日用品・必需品ならまだしも、例えば「車」を買い替えようという気にはなれない。
このため、確かに輸出額自体はやや伸びているものの、一方で、円安による輸入品の高騰と、ウクライナ危機によるエネルギー資源の高騰により輸入額が跳ね上がり、「貿易赤字」。日本経済の強さの表れとされた「貿易黒字」は消え去ってしまった。
②「海外からの旅行者」に有利。
いわゆるインバウンドによる「観光立国」になるチャンスではある。ただし、コロナの影響もあり、そのスピードはやや遅いか・・・
留学生も日本で安く暮らせるが、日本の大学に魅力を感じるかどうか・・・
一方で、「外国人労働者」が日本を目指すかどうか? どうであろうか、このあたりやや思考力が必要だが。答えはNO。1ドル=100円が1ドル=200円になったとしよう。時給1000円の場合、前者のときは10ドル稼げていたのに、後者の場合は5ドルに目減り。日本は稼げる場所ではないということになり、労働力不足も生じてくるかも。
現在の円安はメリットが脆弱
と言うことで、現在の円安はメリット自体が脆弱。その上、為替と物価はシーソーの関係だから、円が下がると物価が上がる。生活必需品の値上げが家計を直撃している。
さらに、下がっているのは円の価値だけではない。「トリプル安」の「再来」が懸念されているとのこと。
トリプル安とは、①円安、②「株式」安、③「債券」安。
国力が低下し、成長戦略の見えない日本に対して、海外投資家が投資してくる訳がない。むしろ日本の「株式」、「債券」はじわじわと売られているようだ。
「再来」というのは、実はトリプル安は1990年に生じていたからで、この時のトリプル安こそバブル崩壊のきっかけとなったものであった。この時は、景気の過熱を抑えるため金利をあげ、金利が上昇すると株式、債券は下がる、といった図式であった。また前年生じた「湾岸戦争」と原油価格の高騰で円安も進んだ。
ところが現在は、この時を上回る勢いで円売りが進んでいると言うから困ったものだ。今回の円安は日米の金利差のためで、円をドルに替えようという動きが激しいから、円安の加速度が早いという訳だ。ただ、湾岸戦争・ウクライナ危機という危機の点では驚くべき共通性があるが、前回のトリプル安でバブル崩壊、その後「失われた10年」に入ったことを想えば、危機感をもたざるを得ない。
既に家計は火の車である。賃金は上がらない、年金も目減りしている、それなのに物価が3%も上がってきた。電気代も高騰、ガソリンも高止まりしたままだ。株や債券ももうけにならない、一方で貯金も日本ではほとんど利子がつかない。ではドル建て貯金をするかというと、それがまた円安を呼び込んでしまう。悪循環である。またそもそも投資や貯金ができるのはお金がある人だけ。低所得者は生活を切り詰める他には手はない。
受験生諸君。何と君たちの受験期、日本経済は大変な状況に陥っているんだぞ。
袋小路を突き破るには?
で、こうした袋小路をどう突き破っていくか。合理的配慮として真っ先に思いつくのは「消費税」を下げること。低所得層を中心に家計負担が軽減され、消費意欲が徐々に高まっていくはずだ。
しかし、岸田政権はそれをやろうとしない。
黒田総裁の任期もあと半年・・・これまでの異次元の金融緩和政策を大きく変更することになるのか?・・・だが、これまた難しい。出口が見えないのが現状だ。
となると、今後の「成長分野」に対して、様々なイノーベーションを起こせるように、「教育」に金をかけ、今後の躍進に託すしかないのでは・・・というのが私の個人的意見。今は辛抱。これまでの貯蓄「内部留保」等を活用しながら、10年、20年、30年先を見据えて、「成長戦略」を練るべきではないかと。
で、その一つの方策が以下のようなこと。エコノミストの熊野英生さんの主張を基に、共通テスト対策として、思考力を問う問題として作成してみた。
予想問題
問題
■以下の提案の空欄の適語を選びなさい。
「輸出産業が海外子会社に保有する( 1 )を日本に還流させて、( 2 )に用いる時に( 3 )すればよいと考える。資金還流は、( 4 )を( 5 )に向かわせる。国内( 2 )で増える生産量は( 6 )拡大に振り向ければよい。内需拡大と併せて一石三鳥の効果が見込めると考える。」
【語群】
円高 円安 設備投資 間接投資 減税 増税 輸出 輸入 外貨準備 内部留保
解答・解説
※一番のポイントは「資金還流」が円安を円高に向かわせるという変化を想像できたかどうか。
「ドルが入ってくると円高になる」という基礎が応用できたかどうか。
(1)は内部留保
現在企業が溜め込んだ内部留保は500兆円を突破、そのうち輸出企業が海外子会社に保有する内部留保は38兆円とのこと。これを円に替えてはどうかという提案である
(2)は設備投資で、これが「一石」。
(3)は減税・・・これが連想しにくいか
なお、「補助金」という政策もあり得る。
現在政府は、「サプライチェーン」対策のため、半導体などの製造を国内で復活させるため、設備投資促進対策として補助金を出す政策を実施している。このあたりも知っておこう。
(4)が円安で(5)が円高
(6)は輸出の拡大
問題にはしなかったが後段出ている「内需拡大」も重要な視点
円高、内需拡大、輸出拡大・・・これが円安の袋小路からどう脱却するための「三鳥」
なお、こうした生産拠点の国内回帰は、実は一部で既に始まっているらしい。先見の明があった企業なのだろう。もっとも、自動車産業などの内部留保をたっぷり有している輸出産業ではまだその動きはないとのこと。しかし、内部留保をイノベーションに費やし、新たな「成長産業」を起こすべく日本回帰を急いだほうが得策ではないか。その結果、設備投資による「内需主導」型の景気回復を図り、消費意欲を喚起していく以外、道はないのではないか。
ただし、一方で、「生産性の低さ」という大きな課題もある。「えっ、日本って生産性が低いの?」と疑問に思う受験生も多いと思うが、それもまた現実。この点は後に触れ直すことにして、IT分野で米中の後塵を拝したということに鑑み、「自然エネルギー」や「医療・薬剤」等、地球のためになることを、持続可能な社会に貢献できる分野で、大いに日本は貢献すべきだ。
その担い手として、若人よ、「今」を掘れ。世界は君たちを待っている。
※なお、今回のコラムがするすると頭に入った受験生は力がついてきた証拠。11月末までは少しずつでいいから、こうしたコラムなどを読んで、自頭を鍛えていこう。12月から追い込みに入るためにも。
受験生諸君・・・朝の来ない夜はない・・・夜明けは近い・・・ぞ。