【共通テスト対策】フクフクちゃんの公共(現代社会)・倫理・政治・経済

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「政治・経済」試作問題(2021年3月発表)を解いてみる その4の(1)

最後の大問第6問は、グローバル化する国際社会の諸課題を探究する活動を通して,人の移動に関わって生じている問題の解決策を,人間社会の普遍的な価値に基づいて構想するために必要な思考や判断ができるかを確認する」という趣旨の問題。

「ヨーロッパにおける人の移動と,それが日本に問いかけていること」をテーマにして、前半3題については

  • 欧州連合EU)加盟国の人口に関する資料」
  • EU 加盟国の法定最低月額賃金を示す資料」
  • 「イギリスの EU 離脱の是非を問う国民投票の結果と世論調査にみる支持理由を示す資料」

これはぜひ問題を確認しながら、チェックしていただきたい。

問1 EUの歴史的な変遷についての知識が必要な問題

「複数の資料の読み取りを通じて,EU 域内の人の移動について国際的な社会状況の変化と関連付けて理解しているかを問う」という趣旨の問題。

・資料 1 は、「EU 加盟国の市民権をもつが EU 域内の他国に移り住んでいる 20~64 歳の人口の,「市民権をもつ国」の居住人口に対する比率(2020 年時点)の上位 10 か国」。
要するに「移民」として祖国を離れた人々が多い国で、ルーマニアクロアチアなどが高い。

・資料 2は 、「2014 年と 2020 年とを比較したときの EU 加盟国の居住人口増加率の上位 5 か国・下位 5 か国を示しているもの」。
マルタ、ルクセンブルクアイルランドなどが高く、逆にクロアチアルーマニアなどは低いが、さらに低いのがリトアニアラトビア

こうした資料を基に会話文の空欄を埋めていく問題。

これは資料読解も加味しながらも、実は、結局は・・・EUの変遷に関する、特に「ユーロ危機」に関する基本的知識が不可欠な問題であった。

おそらく順番通りに答えていくと思われるので、「リーマン・ショックの後、2009 年からの〔ア〕の影響が大きかった地域だよね」についてから見ていくと・・・「金融ビッグバン」か「ユーロ危機」のどちらかと言うと、これは「ユーロ危機」。そもそも「金融ビッグバン」は日本のことなので、それ自体すぐに排除できるが、答えは「ギリシャ債務危機」を発端とする「ユーロ危機」。ユーロ経済圏が全体的に財政危機と低成長に陥ったこと。

次に、「 〔イ〕以降に新たに EU に加盟した東ヨーロッパ諸国での人口の減少が目立っているね。」とあるが、2004 年or 2013 年か・・・の選択肢だと、2004年だと前段の「2009 年からの「ア」の影響が大きかった地域」とつじつまが合わないので、2013 年か。そもそも、資料2は2014 年と 2020 年とを比較したもの。資料の詳細な把握は必要がなかったが、どんな資料だったのかという把握自体は求められていたということになる。

最後の「東ヨーロッパ諸国では,1989 年に相次いで民主化した後,1990 年代に 〔ウ〕へ移行する過程で深刻な不況に見舞われたんだよね。」。選択肢は、「計画経済」か「市場経済」。これは無論、「市場経済」に移行。

穴埋め自体は易しいが、会話が時代的に遡る形であったため、〔イ〕あたりで混乱する危険性があった。
結局は、1989年の東西の壁崩壊、以降の東ヨーロッパ諸国のEU加盟、しかし2008年のリーマン・ショックによって東ヨーロッパの経済状況が悪化し、西ヨーロッパに「移民」として移動、そのため2014 年と 2020 年と比較すると、「東ヨーロッパ」での人口減少が顕著・・・こうした流れが描けたかどうか。

となると、冒頭に掲げられた資料については、ほとんど吟味する必要がない問題であったということになる。

ここでの教訓は、とりあえず、何を問うているのか?を把握することを優先し、冒頭の資料解釈はサクッと・・・ということかも。
だが、せっかく資料を出すなら、その吟味を必要とする設問にしてもらいたいものだというところが本音。この段階では、いささか肩透かしな問題だと感じた。

問2 資料の吟味と「推察」の論理的整合性を判断する問題

EU 域内の人口移動に関する事象を分析しながら国を越えた人の移動の要因について考察できるかを問う。」という趣旨の問題。

「移動の要因」として「EU 加盟国の法定最低賃金に関する資料」が付加されたが、前の問題の資料1・2と連動したものとなっていた。

前問の解説で、資料の吟味がほとんど必要でなかったと書いたが、実は、この問いの「前段」として意味を持っていたことになる。

ルーマニアクロアチアの法定最低賃金が低いことが示された表から、「なるほど、だから他国へ移民として・・・」と解釈させるようになっている。

で、問題は、その表の解釈の正誤問題で、ラトビアルクセンブルクブルガリアを取り上げ、資料1・2にフィードバックさせながら吟味させつつ、「推察」の是非を問う形式となっている。しかも7択で難しい。

ラトビアについては、「EU 域内の他国に移り住んでいる人口の比率は高い」とあるが、上位から7番目の6%程度。
ここにひっかかりを感じた受験生もいるかも知れないが、そもそも上位10位に入っているというところで、ここはよしとしたい。

クセンブルクについては、「EU の原加盟国」であるという知識が求められた。ここにひっかかりを感じた受験生もいたかも。また小さな国だが、「一人当たりGDPが世界トップの裕福な国」という知識があればより一層判断しやすかった。
推察も判断が難しいが、大きな「論理的不整合」はないと判断したい。

ブルガリアEU 域内の他国に移り住んでいる人口の比率も高いが,最低賃金も低く、移民も多いため居住人口もマイナス・・・
このあたりの事実確認は正しいが、「EU 域内の他国での 就労などを目的とした移住は EU 加盟後に減少したと推察できる。」という「推察」は誤りだと判断できるはず。「減少」ではなく「増加」。先に確認したように、人口減少率は2014 年と 2020 年とを比較したもの。これがマイナスということは「近年減少してきた」ことを意味する。
ちなみにブルガリアEU加盟は2007年で、その後リーマン・ショックもあり、次第に労働賃金の高い国々へ移民として移動したものと推測される。

と言うことで、ブルガリアのみが誤り。

で、この誤りは判断できたと思われるが、前二つについては迷ったはず。
難問であった。しかし逆に言うと、「高校生にも判断できる問題になっているはず」・・・と、あまり深読みせず、大きな「論理的不整合」を感じなかったら〇だろう・・・といった「俯瞰的解釈」でよいのでは?と思ったりするが、受験生諸君いかがなものか?

問3 EU・ユーロについての知識が必要であった問題

「イギリスでの国民投票に関する資料の読み取りを通じて,人の移動を通じたグローバル 化と国家主権の間の緊張関係の理解を基にイギリスの政策の意味について考察できるかを問う。」という趣旨の問題。

移民の受け入れ先となったイギリス。そのイギリスがEUから離脱したことは知っていると思われるが、「イギリスの EU 離脱の是非を問う国民投票の結果と世論調査にみる支持理由」について、残留支持の2位と離脱支持の1位を選ぶ問題。

選択肢は、

EU市場へのアクセスは現状維持が最善である
②イギリスのことはイギリスが決めるのが当然である
欧州自由貿易連合(EFTA)に留まる必要がある
④ユーロから離脱し通貨主権を取り戻せる

離脱理由は②か④か。残留理由は①か③か。

離脱の方は、第2位の「移民や国境の管理を自国に取り戻せる」第3位の「EU が決めた加盟国の拡大などに抗えない」あたりを斟酌すると、「イギリスのことはイギリスが決めるのが当然である」はあまりにも漠然としている。
第1問目で「ユーロ危機」に触れていたことを想起するなら、「ユーロから離脱し通貨主権を取り戻せる」が入るか・・・という判断をした受験生もいるかも知れない。

しかし、ここでは知識が必要であった。
実は、イギリスはEUには加盟していたが、共通通貨ユーロは導入していなかった。問題文にあるように、「通貨主権を失い」独自に金融政策が行うことができなくなるためであった。EU加盟とユーロ導入はイコールではなかったという知識が必要であった。

残留の方も知識が必要。欧州自由貿易連合はイギリスが1960年代にフランスなどの欧州経済共同体に対抗して結成していた組織。しかし70年代イギリスは離脱し、EC(EUの前身)に加盟。EFTAは現在はスイスやノルウェーなどで構成され、無論それらはEUに加盟していない。この知識があれば、③をカットして①を選ぶことができる。

一見、論理的思考力を問うたように思えたが、実は知識問題であった。逆に、差がついたかも。