2025年の公共・政治経済を解いてみる その1
全体総括
「試作問題」に比べると、かなり易しい問題群であった。新課程となって、新傾向の意欲的な問題の出題を期待したが、やや肩透かしであったことは否めない。良問だと評価したいものはわずかにとどまった。
「公共」は極めて易しかった。ある意味では、とてもよいことだと思う。受験と言うことは意識せず、「公共」について様々な側面から考察するような授業が担保されるからだ。
逆に言うと、「政経」はもっと踏み込んだ問題が欲しかった。選挙や経済政策についての王道的な問題群が全く姿を見せなかったのは残念。
問題形式としては、「正誤問題」が激減したという印象をもった。文脈を読みながらの穴埋めが増えた。知識問題から思考力問題への転換がそのような問題形式の転換をもたらしつつあるのであろう。
無論、知識を問うた問題もない訳ではないが、やはり、細かい知識ではなく、「大局的な知識」の有無を問う問題については、もっと工夫して出題すべきではないか。その意味で、大問5の問4は良問であった。このような良問が4~5個あると、向かう意欲が湧くというものである。
一方で、受験生にとっては組みやすい問題が多く、結果、平均点も比較的高く、ほとんどの受験生は特に不満もなかったことであろう。
ただし、やはり、情報処理量は多く、時間を意識してのスピード解答で、できたかどうかの確信が薄いままであったかも知れない。とにかく最後まで到達するために、がむしゃらに解きまくっているにすぎないような感じがする。
いずれにせよ、正直言って、情報量が多すぎる。そもそも、そこまで情報処理能力を求める必要があるのだろうか?
もう少し情報量を抑えて、むしろ、じっくりと斟酌させるような骨太な問題を組み入れてほしいものだ。
以下、問題作成者に厳しい指摘もしつつ、また、予備校解説ではできないような受験生目線の「解法過程」を加味した解説を記しておく。
◇は落としてはいけない基本的問題、◆は何とか拾いたい問題、★はやや難しく落としても致し方ない・・・という意味
大問1 共生社会に向けての問題群
まず、25点分は「公共」の問題であったが、かなり易しいものであった。ある程度の思考力を要するものもあるにはあったが、落ち着いて取り組めば全問正解できたはず。
ただし、情報処理すべき文章量・データ量が多く、素早い処理能力が求められた。
問1 ◇男女平等にかかわる基本的な知識問題
アは、受験生なら14条→「法の下の平等」がすぐに想起されるはず。
「両性の本質的平等」は24条で示される原則だが、後段の「人種、信条、性別、社会的身分又は門地によって差別されない」の前段に、「両性の本質的平等」は論理的にかみ合わない。
イは、男女雇用機会均等法。1985年のことで、今年40年になるので、狙われると思っていたが。
ただし、問題文は、女性差別撤廃条約批准「したことに伴い」、男女雇用機会均等法を「制定した」とあるが、これは正確ではないのでは?男女雇用機会均等法は5月17日に成立。女性差別撤廃条約批准は6月24日 内閣批准決定、同日寄託。解答に影響は及ぼさないが、批准「するにあたり」制定したという表現をとるべきであった。
問2 ◇性的役割分担に関する読取り問題
性別役割意識に関する資料読解だが、誤りは④でとても易しい。
それにしても、「同程度の実力なら、まず男性から昇進させたり管理職に登用するものだ」に対して、若い世代の方が肯定的であったというデータには驚いた。
改めてデータ元でも確認してみたが、20代、30代男性で「そう思う傾向が強い」とのこと。「男性なら残業や休日出勤をするのは当たり前だ」という設問についても男性にそう思うという解答が多く、「男らしさの呪縛」がまだまだ若い世代にも色濃く残っているのではないかと思ってみたりした。
問題は極めて単純な読取り問題であった。せっかくなら、もう少し思考力を問うような工夫がほしい。
問3 ◇女性議員比率の国際比較の資料読解問題
日本を含む4か国の比較。対話文を照合しながら判断する問題。注意深く正誤を判断さえすればすむ問題。受験生にとってはありがたいの一言であろう。
だが、情報処理能力だけを問うたもので、公民科の問題としては残念の一言。
問4 ◆人権にかかわる法整備に関する知識問題
前段の、「形式的」平等と「実質的」平等は、常識的に答えることができよう。
問題は、アイヌ民族に関する法。これは迷ったであろう。2019年という直近の法律。「文化振興」か「民族支援」か?両者のどちらが先か?
これは判断しにくい。初めて「先住民族」と明記されたという説明から、「民族支援法」の方を選んだという、野生の感で勝負した受験生もいたかも。
だが、1995年 「人種差別撤廃条約」批准の後に「アイヌ文化振興法」が、そして2007年に国連において「先住民族の権利に関する宣言」が採択されたことを背景に、「アイヌ民族支援法」(アイヌ新法)が制定されたもといった具合に、「国際的な潮流と結び付けた丁寧な学習」が求められたということであろう。
と同時に、「ウポポイ」だけでなく、「ゴールデンカムイ」という漫画や映画が大ヒットしたことも出題の背景にあったかも。粋な出題だと評価したい。
大問2 「公共空間」にかかわる問題群
問1 ◇ハーバーマスとアーレントに関する知識問題
倫理思想はこの1問だけであったが、今後も、近代の思想家よりも、現代の倫理思想・政治哲学が出題されることになることを予感させた。
答えは簡単。「合意」「対話的理性」というキーワードはハーバーマス。
ただし、アーレントの活動については、キーワードではなく、「契約」か「言葉」か判断させる思考力問題になっていて、これは評価したい。
無論、「言葉」だが、ここで足元をすくわれた受験生もいたかも。
問2◇調査結果の読取り問題
「時間のゆとりの有無」、「自由時間の過ごし方」に関する年代別回答にかかわる興味深いデータが提示された。ネット依存を想起させるようなデータでもあった。この読取り問題も、ひとつひとつ確実に、読み間違いがないか斟酌していけば事足りた。何のことない、3つの分析いずれも正しいものであった。
受験生としては、落ち着いて処理していく以外ない。
問3◇帰納的推論を選ぶ読解問題
帰納と演繹についての理解があれば斟酌できる。ⅠとⅢは帰納法である。思考力を伴う良問と評価したい。一つ一つの発言が結構長く、速読即解する力が求められた。
問4◇討議形態の判断力問題
コロナ禍でオンライン討議が一気に進んだことを背景にした、会議参加の形態についての思考力問題。対面、非対面、両者の併用といった形態の事例を選ぶ問題。簡単であるが、問の意味を素早く理解する必要がある。情報処理能力が問われたと言ってもよいであろう。
大問3
続いて、「政治経済」の問題。
取り立てて深い知識を求めた問題はないが、経済、政治分野でひとつずつ知識問題が出題された。「公共」の延長のような「地域社会」に関する比較的易しい問題群であった。
問1◇スタグフレーションに関する知識問題
アメリカの古い時代の消費者物指数と失業率の推移なんていう、とんでもない意味不明のデータを持ち出しているが、これは、受験生に圧をかけているだけの常套手段。
そんなものに惑わされてはならない。この問題は、単純に、「スタグフレーション」に関する知識があるかないかの問題。
日本でも、第二次オイルショック後に「高い物価上昇率と不況が同時に生じる」、と言うより「不況にもかかわらず物価が上昇する」スタグフレーションが生じた。これは欧米も同様であった。
とすると、空欄イがスタグフレーションであるなら、空欄アは当然「期間a」ということになる。グラフの変化を斟酌して悩む必要もなし。
問2◇合区に関する知識問題
合区が「投票価値の平等を実現する」ためのものであることは受験生なら判断できるはず。
後は、合区が衆議院なのか、参議院なのかという簡単な知識問題。無論、参議院。簡単な問題。
問3◇フードマイレージを活用した常識問題
これも極めて簡単な常識問題であった。
食料についても「安全保障」が大切。また「地産地消」なんて何十年も前から唱えられていること。
問4◇「表現の自由」にかかわる判断問題
ネット上の言論規制に関する議論がいよいよ不可避となってきた。
配布資料は意味の取りにくいものであったが、問題自体は常識的に答えることができるものであった。
空欄アの「検閲の禁止」は「危険な言論を取り除くことで・・・」ではない。それが、検閲そのものである。「意見の自由なやりとりを確保することで、真理を探究し続ける」ためのものである。
なお、憲法で、国家が検閲することを禁じているために、国はSNSの言論規制することはできない、それが故に、プラットホームによる自主規制を促すという形をとらざるを得ない・・・ということも受験生なら再認識しておきたい。
空欄イは、アルゴリズムにより情報が偏れば(フィルターバブル、エコーチェンバー)、当然、異論、反論が入ってこずに、自由市場の前提である「競争」は「阻害」される。ここでは「競争」はポジティブなものとして捉えられているので、それが「阻害」されるのは問題だ・・・ということになる。
問5◆ふるさと納税にかかわる読取り問題・税金に関する基本的な知識も
アは説明文通りで正しい。東京23区と20の政令指定都市の住民の寄付が半数を占めるということか。全人口の3割なので、他地域以上にふるさと納税をしているということになろうか。
イはやや思考力を要する。「個人間の所得格差が是正される」訳ではない。「高所得者ほど多くの返礼品を受け取ることができる」という一文に着目したい。ウの「国の財政とは無関係である」も判断に迷ったか?ただ、常識的に考えても、無関係はないであろう。冒頭に出ているように、地方税の「住民税」だけでなく、国税の「所得税」からも控除されるし、最後に出ているように、「地域外に流出した財源の75%が地方交付税で補填される」、言うまでもなく「地方交付税」は国税であるので、無関係どころか、一定程度国善を食っている。
この問題を解くのに「ふるさと納税」自体についての知識が求められていたという訳ではない。知らなくても、資料文を読めば解答できる。しかし、他方では、税金に関する基本的な知識は不可欠であった。その意味では良問であったと言えよう。
なお、高校生にとっては、ふるさと納税自体についてほとんど関心はないかも知れない。しかし、一方で、この制度は様々な問題を孕んでいる。将来的には、制度の問題点を考察させるような掘り下げた問題も出題される可能性はあるので、どこかよい機会に、問題点について考察するような機会を提示したいと思っている。
問6◆防災・減災に関する判断問題
イの「洪水浸水想定区域指定」は、公助か共助か?少し悩んだかもしれないが、やはりこれは「公助」であろう。「共助」は「近隣で助け合う」こと。
アも悩んだかも知れないが、「補償」。「賠償」は「違法な行為によって生じた損害を補填するもの」。現在、国が、旧優生保護法のもとで障害などを理由に不妊手術を強制された人たちに対する賠償を開始したが、これなどは国家「賠償」である。
ここまで留意して区別していなかったかも知れないが、ネットで「補償・賠償・違い」などと検索すると、説明に出くわす。
かつては辞書で確認したものだが、ネットでもよい、曖昧な言葉は、曖昧のままに付さず、確認しておきたい。その意味では、よき教訓をもたらした問題であった。