前回の記事で囚人のジレンマの基本について触れた。
こうした「囚人のジレンマ」をベースにして出題されるのが、「軍縮」と「環境保全」のジレンマ。囚人のジレンマは「年数」が少ないほうが良いが、軍縮、環境保全ともに「得点」が多いほど良いという違いには注意する必要があるが、同じ考え方だ。
「軍縮」と「環境保全」両方とも全体から見れば、「軍縮」、「環境保全」という「前向きなアクション」をとった方が良いのに、後ろ向きのアクション、「非協調的選択」をとってしまい、結果として全体としては、望ましくない選択をしてしまうことになる。
これは、「お約束」問題である。
リカードの「比較生産費説」と同様で、そのようになる数値が設定され、与えられた数値がどのようなものであれ、お約束として、「非協調的」選択の部分が「選択肢の正解」となる。
ところが、これが、得点の上では「最善の選択」ではないというのがミソで、このことが分かっていないと「両者の総合点が最も高いところ」や「片方にとって最も得点の高くなる選択」を選ぶのではないかと考えてしまう危険性がある。「囚人のジレンマ」を知っているか否かで差がつく、これまた知は力なりの一例である。
囚人のジレンマと軍縮
軍縮の事例を一つだけ取り上げておこう。設定は以下の通り。
「A国とB国の二つの国家が,互いに相談できない状況で,「協調的」もしくは「非協調的」のいずれか一方の政策を1回のみ同時に選択する。そして,各国は表中の該当するマスに示された点数をえる。ここで各国は自国の点数の最大化だけに関心をもつとする。」
協調的は「軍縮」、非協調的は「軍拡」と考えればよい。
A国にとっては、B国が軍縮してくれて自国のみが軍縮しないほうが5点と最も得点が高いのだが、B国も同様な思惑をもため、結局は両国とも「非協調」の軍拡を選択してしまい、両国とも2点止まり。もし、協調的選択・軍縮をすれば、両国とも他のところにお金を回すことができ、得点もそれぞれ4点、世界全体でも8点と最も望ましい結果になったのに・・・ということで、軍縮が進まない本質をえぐり出す理論でもある。
そこで、「信頼醸成措置(CBM)」が必要であるといったことになるが、これも問われる可能性がある。
【創作問題】信頼醸成措置(CBM)
以下のうち、信頼醸成措置とは言えないものはどれか。
①軍事演習の事前通告
②軍事同盟による勢力均衡
③首脳間のホットライン
④現有軍事力の透明性の向上
答えは簡単・・・②
①は「欧州安全保障協力協議会」のヘルシンキ宣言で初めて明記されたもの
しかし、今回、ウクライナ戦争では、バイデン大統領とプーチン大統領とが電話会談を行っているが、戦争開始の抑止にはならなかった。また、②の軍事同盟による勢力均衡については、もちろん信頼醸成にはならない。ただし、今回のウクライナ戦争については、NATOが拡大し、勢力均衡でないが故に起こった戦争とでも言えるが、かと言って、戦争の原因をNATO拡大に求めるのはおかしな話し。しかし、軍拡はやはり歪みを起こすということを如実に示したものと言える。
また、環境・軍縮については、以下の問題にも取り組んでみよう。
【創作問題】地球温暖化防止に関するパリ協定について
※地球温暖化防止に関するパリ協定について、誤ったものを一つ選んで記号で答えなさい。
①先進国だけではなく、発展途上国も参加している。
②アメリカは一時離脱したが、バイデン大統領の下、再び加盟した。
③削減目標は、各々の国の状況によってそれぞれ独自に設定された。
④目標が達成できなかった場合の罰則規定が設定された。
→正解は④ むしろ逆で、罰則規定だけでは駄目だよね・・・という考え方に変更された。
罰則規定があると発展途上国が参加しないという思惑から・・・これがどう出るか・・・賭けでもあるね。
【創作問題】核兵器禁止条約について
条約発効に必要な批准国数を超えたため、核兵器禁止条約が発効した。このことに関連して以下の問に答えなさい。
(1)今現在、どの程度の国が参加したか。 以下から選んで答えなさい。
34か国 52か国 76か国 93か国 126か国
(2)以下の考え方のうち、現在の日本の政府見解とは言えないものを全て選んで記号で答えなさい。全て政府見解であれば、なしと答えなさい。
①核の惨禍を二度と繰り返さないための最も確かな保証が核兵器のない世界を実現することである。
②核拡散防止条約は、核保有国の保有自体を認めるため、核兵器のない世界にはつながらない。
③核兵器禁止条約を批准するのは、唯一の戦争被爆国として当然の責務である。
④核軍縮を進めるにあたっては、諸国間の安定的な関係の下で進められる必要がある。
⑤自衛力を高めることで、将来的には、米国の「核の傘」から抜け出る必要がある。
(1)について、こんな大雑把な問題は出ないであろうが、どう?想像できる?
現在国連加盟国数は193カ国。条約の発効については一律の基準はなく、その条約ごとに定められる。今回の核兵器禁止条約は50カ国が参加したら発効。それを超えた52カ国が批准し発効した。
ただし、発効と言っても、批准した国の中でのこと。批准していない国には効力はもちろんない。
(2)について
→これは難問。①と④。
①核の惨禍を二度と繰り返さないための最も確かな保証が核兵器のない世界を実現することである。
①は安倍政権のもと明言している。が、一方で核兵器禁止条約については参加していない。
④核軍縮を進めるにあたっては、諸国間の安定的な関係の下で進められる必要がある。
④は常識的な言い回し。
②核拡散防止条約は、核保有国の保有自体を認めるため、核兵器のない世界にはつながらない。
②日本は核拡散防止条約には参加しているので✕。
③核兵器禁止条約を批准するのは、唯一の戦争被爆国として当然の責務である。
③既に触れたように参加・批准していない。なお、「唯一の戦争被爆国」という言い回しは正しい。ビキニなども核実験による被爆国なので、近年はこの言い回しをする。
⑤自衛力を高めることで、将来的には、米国の「核の傘」から抜け出る必要がある。
⑤「核の傘」はないほうがいいに決まっているが、自衛力を高めるのではなく、「核なき世界」を求める只中で、「核の傘」というものをこの世から消滅させたいものだ。しかし、政府は、米国の「核の傘」から抜け出る必要があるとは言っていないので✕。
現在、ウクライナ戦争に際して、核兵器は使用されていない。しかし、核の使用がほのめかされた。核があるから核戦争にまでは至らない・・・のではなく、核があるから、核戦争による人類の滅亡が本当にあり得るかもしれない・・・そんな恐怖を抱かせる状況になった。このジレンマに今後国際社会はどう向き合うべきか・・・が、切実に問われることになった。
一方で、日本については、非核三原則に反する「核の共同保有」や、これまた国是である「専守防衛」についても見直すべきだという意見も出てきた。今後、政治家だけにこの議論を任せてはならない。若者を含め国民一人ひとりが、真摯に考え、意見を表明できなくてはならない。
人により意見は違うかもしれない。しかし、それをぶつけ合い、議論をすることこそ、民主主義である。
プーチン大統領が暴走したのはロシアに民主主義が欠如していたから。時間はかかっても熟議できる日本社会でありたい。