【共通テスト対策】フクフクちゃんの現代社会・倫理・政治・経済

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【今日の時事問題】日本の「円安」が止まらない。その5(物価・為替レート・通貨の購買力)

 

物価の上昇の動きと円安、インフレ

ここのところ物価の上昇の動きが生じ始めた。ウクライナ戦争をその一因として、原油価格や小麦などの輸入製品が上昇するという「コスト・ブッシュ・インフレ」の一つ「輸入インフレ」によるものであると言われている。それは、消費生活に打撃を与えるため「悪いインフレ」と呼ばれる場合もある。「悪い円安」とともに、日本経済が直面することになった課題である。

 

ここで、「円安とインフレ」の親近性に触れておきたい。円安は円の貨幣価値が下落することである。インフレも、貨幣価値が下落することである。

つまり、円安とインフレは同一ベクトルの動きで、円安がインフレ≒物価上昇を呼び、インフレ≒物価上昇が円安を招く・・・というケースがよくあるということ。

また、「円安」ということは「円の購買力が低下する」ということであるから、自国の物価水準が相対的に上昇すれば、円の購買力は低下する。逆に、「円高とデフレ」も親近性があり、ここ20年以上は、基本的には「円高とデフレ」のセット。円高は、輸入商品を通じて物価を下げる効果があることも以前触れたが、これは理解できるかと思われる。また、「円高とデフレ」だと、「円の購買力は高まる」、これも理解できるはず。

ただし、これらの親近性はあくまで理論上のことであり、現実には、その通りにならないこともあるが・・・。

 

こうしたなか、「円高とデフレ」という状況を問題視したのが安倍政権。

「デフレと不景気」に親近性があり、不景気を脱するために、インフレ2%を目標に「アベノミクス」を推進したこと、これは受験生としては常識でなくてはならない。が、一方で、思うようにいかなかった・・・というのが、ついこの前までの状況。

 

ところが、現在は、反転して、「円安・インフレ」が同時進行しそうな気配になってきた訳だが、その点については、後に触れることにして、今回問題にしたいのは、実は、昨年末ごろから、「他国と比べ、日本はほとんど物価が上がっていなかった」という状況が問題視され出していたこと。これまでの時事問題解説で、日本はかつては「物価が高かったが・・・」と述べていたが、むしろ、日本の物価は相対的にかなり安くなっていたというのだ。「円高とデフレ」のセットが物価上昇抑制の一つの要因であろうが、欧米諸国のほとんどが物価が上がっている中、日本の物価がほぼ横ばいで推移してきたことはかなり特異な状況のようであった。

 

 そこで、物価と為替レートあたりの周辺を理解するために、今回、いくつかの指標について解説を加えたい。かなりこんがらがって、頭を使うけど、何とかくらいついて!!!

 

 

購買力平価説

①まず、「購買力平価説」を理解したい。これは、為替レートの決まり方を説明する考え方の一つで、仮に貿易障壁がない世界を想定してみた場合、そこでは、国が異なっていても、同じ製品の価格は一つになる(「一物一価の法則」)、と考えてやるものである。

 

この考え方に立ち、仮に日米2か国を取り上げた場合、ハンバーガーの価格がアメリカで3ドル、日本で300円だとすると、3ドル=300円、これを購買力平価とみなす。そして、これを基にして、ハンバーガーだけで計測した、1ドル=100円を日米の為替レートとみなすという考え方である。実際の為替レートは当然、様々な要素によって変動するものの、長期的にみれば購買力平価から一方的に乖離することはないという考え方に基づく。

このように、この2国間の為替レートは、どちらの通貨を用いても、同一商品を同じだけ購買できる水準になるという考え方を「購買力平価説」と呼び、実際、購買力平価の変動と為替相場のレートの変動は酷似しているそうだ。

試験では以下のような計算問題が出題されることがある。

 

○「ハンバーガーがアメリカでは1個0.9ドル、日本では180円で売られている。ハンバーガーだけ計測した円のドルに対する購買力平価による為替相場は何円になるか」

 

 

★解答

0.9ドル:180円 = 1ドル:X円  

→ X=200円

 

 

○「ハンバーガーの価格がアメリカで3ドル、日本で300円だった。ところが、ハンバーガーがアメリカで4ドル、日本で360円になった。ハンバーガーの価格が購買力平価説が成り立つ場合、円とドルの為替相場はどのように変化したか」

 

 

★解答

3ドル=300円 の時は  1ドル=100円

4ドル=360円 の時は  1ドル=90円

 

あくまで、「ハンバーガーの価格が購買力平価説が成り立つ」という前提なら

 1ドル=100円 から 1ドル=90円に 「円高」ドル安に変化した・・・

どう?理解できるよね。別に難しくないよね。

 

ところが、「購買力平価説」が何のことか全くわかっていなかったら、ちんぷんかんぷ

ん・・・ということで、知っておく必要がある説なんだ。実は、つい最近の2022年政経第一日程で、この「購買力平価説」にかかわる計算問題が出題されているんだ。

なお、上記の場合、ハンバーガーの価格は、日本が1.2倍、アメリカが1.333…倍高く

なっていて、アメリカのほうが価格の上昇率が高い。ここでも、「円高・デフレ」だと、基本的には日本の価格の上昇率は抑制される、といったことが読み取れるのではないか。もしアメリカが3ドルのまま、日本だけが360円と価格が上がった場合、逆に、1ドル=120円に変化、「円安・インフレ」に振れたということになる。

 

上記のことが理解できているかどうかチェックするために、以下の正誤問題を判断してみよう。

 

購買力平価説に立脚すると、ある国の物価が上昇すれば、その国の通貨が減価する形で均衡為替レートが調整され、物価の上昇率が高い国の通貨は長期的に下落するということになる。○か?

→○ 理論的には、正しい。

 

 もう一度同じ事例を取り上げるが、アメリカで3ドル、日本で300円だったハンバーガーが、アメリカが3ドルのまま、日本だけが360円と価格が上がった場合、1ドル=100円が、1ドル=120円に変化、円安となるから正しい。

 ※抽象的に言うと

   「購買力平価というのは,自国の為替レートの価値は自国と相手国の物価水準の比率に反比例するという見方である。」

・・・物価が上がると為替レートが下がる、物価が下がると為替レートが上がる

どう、理解できるかな?かなりハイレベルな知識だが、知っていて損はない。

 

 ただし、あくまで、理論上のこと。現在、アメリカは物価が上昇しつつ、日本との関係では、ドル高円安となっている。他の様々な要因から、理論上とは反対の現象になることもある。これが難しいところ。

 

内外価格差

②さらに、もうひとつ「内外価格差」についても、再度理解しておきたい。上記の計算問題をそのまま継承し、ハンバーガーの価格がアメリカで3ドル、日本で300円だったとしよう。購買力平価は1ドル=100円ということになる。ところが実際の為替レートが1ドル=90円と購買力平価と乖離し、「円高」に振れていたとする。この場合、この商品は日本で300円なのにアメリカでは270円(3ドル)で買えることになる。この差のこと(=30円)を「内外価格差」と言う。

もし、内外価格差の比率計算が求められた場合は 購買力平価÷為替レート  

    100÷90=1.11    

これは、相手国を1とした時の日本の価格の倍率を意味する。「円高」だと、「内外価格差」は拡大して、国内の価格が相対的に高くなり、1ドル=90円では、日本では300円は3.33ドルなので、「外国人が物価が高い」と感じることになる。日本人なら、円の価値が高いから、海外に出ると270円で買えて割安感を感じることになるという意味である。

 

ところが、実際は、日本の物価は安く、海外に出るとむしろ「割高感」を感じることになるという。日本はこれまで「円高基調」であったから、本来は、海外では「割安感」を感じるはずである。この矛盾はどうことから起因するのか?円高ではなく、むしろ円安だったということなのか?

 

ビックマック指数

③そのことを探るために、昨年秋ごろから話題になった「ビックマック指数」にも注目してみたい。これは、各国のビックマックの価格を比較したものだが、2021年データでは、日本のビックマックはかなり安いとのこと。日本では390円、ドル換算で3.55ドル、アメリカは5.65ドル、ユーロ圏が5.02ドル、韓国が4.0ドル。日本の物価が相対的に低いということを如実に物語る指標として話題になった。2010年頃は日本は3.91ドルで、アメリカの3.71ドルより高かったということで、日本のビックマック指数の低下は、ここ10年に急速に低下したそうだ。どうも、ここ10年に秘密があるようだ。

なお、ビックマック指数とは

[(ドル表示の日本のビッグマック価格)÷(アメリカのビッグマック価格)-1]x100   という計算式で求められとのこと。

3.55÷5.65-1x100=−37.2

 無論、これが試験に出ることはないので、試験に出る可能性のある「内外価格差」

で示すと・・・

購買力平価説」に基づくなら、日本とアメリカのビックマックは同一水準にならなくてはいけないが、その時の為替相場は390円=5.65ドル。1ドルは、390円÷5.65ドル≒68円となる。しかし、実際の為替相場は、様々な要因で変化し、1ドル100円前後。一応100円と設定すると、内外価格差の比率計算は 

 

購買力平価÷為替レート  68÷100=0.68    

 

ということで、ビックマック指数、内外価格差、いずれにせよ、日本はアメリカより3割程度は物価が割安であるということになる。アメリカでビッグマックを食べようとすると、逆に、割高になってしまう・・・それだけ円の購買力が低下してきた訳であるが、では、なぜ、円高基調であったのに、こういう状況になったのか?考えられるのは以下のことである。

 

○そもそも日本の物価が上がっていないのが根本的なところ。アメリカが物価が上がっているのに対し、日本はほとんど横ばい。そうなると日本の物価は相対的に下落する。

そのため、円高は進んだが、実際はもっと円高であるはずなのに、そこまで為替レートとしては円高になっていなかったのでは

 

・・・もう少し丁寧に確認すると

・日本の物価が相対的に下落しても、それと同程度に円高が進むと、日本とアメリカの購買力は同じ状況に維持される。

 例えばアメリカの年平均の物価上昇率が3%、日本が1%の場合 

アメリカの製品を買おうとすると、2%高く払わなくてはならない

→円の購買力が2%下がる

ドル/円は年率平均2%のペースの円高なら

アメリカの製品を買おうとすると

 →円の購買力は2%上がる

   プラスマイナス・ゼロで購買力は変わらず

・しかし、日本の相対的な物価下落に見合う円高が進んでいないと

例えばアメリカの年平均の物価上昇率が5%、日本が1%の場合 

アメリカの製品を買おうとすると、4%高く払わなくてはならない

ドル/円は年率平均2%のペースの円高なら

円の購買力は2%しか上がらない・・・

・先に、むしろ円安か?と書いておいたが、端的に言うなら、まさにその通りで、実質的には「円安」に進んできたということになる。

先にみた「内外価格差」の数値でいうと、本来1ドル≒68円が円の本来の実力だが、100円に「過小評価」されているということ。30%程度も「安く」。

 

 ○では、なぜ、こういった乖離が生じたのか?

・考えられるのは、一つは、円高にはメリットはあるが、円高になると輸出が不利になるという「円高不況」への危惧が強く、それを避けるため、円高にブレーキをかけるような金融政策をしてきたから。その具体的な政策については別のところで触れるが、そのため、円高基調の中、「そこまで為替レートとしては円高になっていない」という状況を生み出したのではないか。つまり、「アベノミクス」がその背景だと考えられる。

 

 受験生諸君。どうだろうか? 理解できるだろうか?

  もっと分かりやすい説明ができるといいんだが、まぁ、訳の分からない文章を読むのも読解力・思考力向上につながるので、もし、今一歩理解できなかったら、もう一度読み直し、それでも分からないところがあれば、ぜひ質問してほしい。

 

で、最後に、問題は、じゃ、そもそもなぜ「日本の物価は上がっていないのか?」とい

うところ。為替レートとは違うところに大きな要因がありそうだね。ただ、現在、一転して物価が大きく上がりそうになってきた訳だが、その点も含めて、次回、もう少し、解説を加えたい。